【鶴雅グループ・大西 雅之社長に聞く】来年持株会社へ移行、100年ブランド目指す
鶴雅グループ(大西雅之社長)は今年、創業60周年を迎えた。5月には記念式典を北海道・阿寒湖温泉のあかん湖鶴雅ウイングスで開き、持ち株会社体制への移行や、阿寒独自のアイヌアート・プロジェクトへの支援などを発表した。大西社長にグループが描く今後の姿などを聞いた。
【聞き手=本紙社長・石井 貞徳、構成=鈴木 克範】
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――今の心境は。
「この仕事に就けて本当によかった」と思う。時代時代で花形のさまざまな業種・業態があるが、厳しい競争のなかで10年後我が社があると言うのは難しい。製造業では商品のライフサイクルとともに次の会社が勃興してくる。自然の環境に守られた宿泊業界では70年、さらに100年と言える。100年後を地域とともに目指せる観光業界にいることを本当に幸せに思う。
――後継体制を発表しました。
60周年を機に、後継体制を社内外に報告した。来年3月に持ち株会社「鶴雅ホールディングス(HD)」を設立し、傘下に「鶴雅リゾート」「鶴雅観光開発」を置く。鶴雅リゾートは阿寒の遊久の里鶴雅や鄙の座、定山渓・森の謌など7施設を、鶴雅観光開発はサロマ湖鶴雅リゾートや支笏湖・水の謌、札幌のビュッフェダイニングなど5施設を運営する。運営ホテルを道央、道東などのエリアで分けると企業としての現状の体力や将来性が違ってくる。そこで地域を掛け合わせるかたちにした。
20年度までをHD第1期とする。この間、現経営陣を中心に後継者育成に力を注ぐ。鶴雅、森の謌の増改築にも着手する。とくに森の謌は、稼働率は高いが施設は敷地の3分の1しか活かせていない。ゆったりと食事ができるレストランやVIP対応の客室整備が急務だ。新規2施設の開業も目指し、グループ総売上は現状の100億円から130億円へ安定的に成長させる。あくまで、拡大することが目標ではなく、一軒ずつを充実させ、世界から評価される宿を作りたい。
21年度からHD第2期とする。鶴雅リゾートには大西希取締役が、鶴雅観光開発には大西将仁取締役がそれぞれ就く予定。お互いの個性を生かし切磋琢磨しながら、協力して100年ブランド作りを目指してほしい。
――従業員満足度(ES)の向上への取り組みは。
ESの向上は質の高いサービスを提供するためには必要不可欠。鶴雅観光人材養成講座という大学の寄付講座を9年続けてきて、卒業生は270人を超えた。今年も56人の新卒を迎えたが、社員の平均年齢は、5年前の42歳から、今年は36歳になった。若い人たちが、ゆとりをもって暮らせる会社にしたい。労働生産性を高め、時短も強力に進めたい。リフレッシュ休暇なども含め、まずは休みをしっかりとれる会社を目指す。社員の待遇、給与についても考える。企業内保育所や社員寮も新設する。
今年は大学院制度も導入する。有望な社員には通信制大学院に入学してもらう。次の時代を支えるスタッフを育てたい。
――目指す国際的リゾートとは。
国際的に通用する施設づくりを目指している。今年は外国人宿泊客が現在の14%から20%になる見込み。東京オリンピックが開かれる20年までに30%に達するだろう。
札幌の営業本部には海外の個人旅行客を受ける専属の部署もある。宿泊予約に加え、レンタカー手配などの旅行支援も行っている。きめ細かな対応でリピーターが増えている。FIT宿泊客には専属の担当者名と携帯電話の番号を記した「安心カード」を配布している。体調不良や急な行程変更など、緊急時にしっかりとその国の言語でサポートすることを目指している。
今後は外国人の幹部社員も増やしたい。今はリーダークラスだが、宿泊客の3分の1が外国人になる将来、役員登用も自然な流れだ。
――郷土力の発信とは。
昨今の観光は、歴史や文化、芸術がキーワードになってきた。阿寒湖温泉には縄文時代から続くアイヌ文化がある。今、「北の大地・北海道を訪れて、先住民の叡智に触れ、もう一度人生を見つめなおしてみませんか」というメッセージを発信している。
感銘を受けたアイヌ語に「ヤイコシラムスエ」という表現がある。考えるという言葉だが、日本語に直訳すると「自らが自らの心を揺さぶる」という意味になる。心を揺さぶることが、アイヌ民族の「考える」に当たる。心に深く響いた。
グループでは04年の鄙の座開業時、初めてアイヌ文化を宿に取り入れた。12年、鶴雅ウイングスを開業して一番良かったのは、広い中庭ができたこと。この空間を「アイヌアートガーデン」と名付け、悠久の時を表現した縄文アートをテーマに整備したい。真新しいキャンバスにやりがいを感じている。
過去、阿寒オリジナルのアイヌアートによる独自商品の開発・販売を支援してきたが、60周年を記念して、アイヌ文化振興基金(仮称)の創設に2千万円を寄贈する。伝統を引き継ぎ、掘り下げ、郷土力に磨きをかけたい。
――ありがとうございました。