【特集No.647】鼎談 観光の「質の向上」へ “交流の深さ”を追求していく
2023年11月21日(火) 配信
観光の本格的な回復を目指す政府は今年3月、第4次「観光立国推進基本計画」を閣議決定した。「観光の質的向上」を希求する日本の観光政策を担う観光庁の髙橋一郎長官と、新たな国際観光都市の再構築が始動した長崎市の鈴木史朗市長、全国の観光政策に精通する跡見学園女子大学観光コミュニティ学部の篠原靖准教授に登場いただき、持続可能な観光地域づくりや、長崎市が取り組む平和観光連携事業などを語り合った。
【増田 剛】
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篠原:新型コロナ感染拡大により低迷を余儀なくされた観光業界ですが、2023年9月の訪日外国人旅行者数は約218万人と、コロナ前の96%まで回復し、1―9月の累計では1700万人を超えています。
国内旅行についても、延べ宿泊者数が1―6月の累計で約2・4億人泊、日本人国内旅行消費額が約9・9兆円と、足元ではコロナ前の水準まで概ね回復しています。
今年3月には第4次「観光立国推進基本計画」が閣議決定され、①持続可能な観光②観光消費額の拡大③地方誘客の促進――と3つの戦略が発表されました。日本経済を支える屋台骨として、観光による地方消費を向上させる“地方創生としての観光”への期待を改めて感じます。
髙橋:いま急速に観光需要が戻って来ていますが、次長在職当時、コロナ禍で街中からも空港からも人影が消え、観光を担い支えておられる地域の皆様が危機的状況に瀕しておられたことを忘れることができません。
日本の観光の礎を失いかねないことへの強い危機感を抱き、篠原先生にお力添えをいただきながら、何とか「観光の礎を守っていく」一心でGo Toトラベル事業をはじめとする観光需要喚起策を講じました。苦しいなかでありましたが、コロナ禍を乗り越えた後にさらに成長、飛躍していただけるよう地域の宿泊施設の高度化等の支援事業も講じて参りました。
皆様の御努力により、先月には、単月当たりの訪日旅行者数がコロナ前の数字を超え、年間消費額も政府目標の5兆円達成が視野に入る水準まで回復してきています。
一方、まだまだ、地方部への誘客を強力に進めて行かねばなりません。「地方部へ誘客してこその観光政策であり、日本の観光のあるべき姿」との思いを強く持っています。地方部には限りないポテンシャルがあり、日本のインバウンドは、まだまだ伸びると確信しております。加えて、双方向交流の観点から、回復が遅れている日本人のアウトバウンドの回復が重要だと考えます。
――日本の観光の方向性は。
髙橋:今申し上げた点とともに、観光の「質の向上」を主軸に、「観光消費の拡大」や「稼げる地域や産業へ」との視点が重要です。さらに、私には「交流の深さ」を追求していきたいとの思いがあります。若い人たちも活躍して、自分たちの地域が受け継いできた文化や伝統、ひいては日本人の生きざまとも言うべきものを外国人旅行者に存分に知ってもらうことを通して、その価値を再認識、再発見し、自らが住まう地域への誇り、シビックプライドを高めることは大変意義あることと思います。
また、「持続可能な観光」の重要性が世界中で増してきています。
先日開かれた「日ASEAN観光大臣特別対話」でも持続可能な観光をテーマとしましたが、アジアには地域住民が主体となって観光を運営し、観光を通じて自分たちの生活や文化を支えていく「コミュニティー・ベースド・ツーリズム」が根差しています。
環境面やエシカル(倫理的)な取り組みも大変重要ですが、経済的・社会的な持続可能性、すなわち、観光から得られる収益が地域にしっかりと還元され、次世代への投資や人材育成も含め「域内循環」していく仕組みが不可欠であり、観光を通して文化や伝統を保全・発展させて行くことが大事だと思っています。
鈴木:長崎市が目指している取り組みと、観光庁の方向性が同じことを感じています。私は国土交通省在籍時に、03年小泉総理(当時)による「観光立国宣言」の下での我が国インバウンド政策の立ち上げにも携わり、2010年に訪日外国人旅行者数1千万人達成することを目指すなかでビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)などを展開しました。
その後、10―11年にかけての観光庁企画室長のときには、第2次「観光立国推進基本計画」をどのように作っていくかを議論するなかで、数を追い求めることへの反省もあり、旅行消費額や満足度など「交流の質」に関する目標の設定など見直しに取り組みました。今年策定された第4次では、より鮮明に「交流の質の向上」へ向かっていく強い意志を感じます。
このようななか、長崎市も「交流の質の向上」を大きなテーマに据えています。現在、観光庁の「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化事業」の支援をいただきながら、観光施設の改修や、ナイトタイムエコノミーの推進にも取り組んでいます。
長崎市は世界新三大夜景の1つとして、夜景を強力な観光コンテンツとして捉えるなど、「いかに交流の付加価値を高めていくか」が今後の課題だと思っています。宿泊していただくことや、「より長く滞在していただく」ことも重要です。……
【全文は、本紙1921号または11月27日(月)以降日経テレコン21でお読みいただけます。】