「観光人文学への遡航(41)」 観光キャリア教育と採用のいま①旅行業界
2023年11月23日(木) 配信
11月4日に白百合女子大学にて日本国際観光学会の全国大会が行われた。テーマは「観光学部・学科学生をどのように業界へと導くか」である。約3年続いたコロナ禍の影響で観光業界から離れた人材が多く、人材不足が深刻な影響をもたらしているなか、人材供給源としての大学はどうあるべきか、とくにこの業界に特化して研究活動を展開している学会としては至極当然のテーマ設定である。
もともと、観光学部学科卒業の学生たちが多く志望する観光関連産業の業界としては、旅行業界、ホテル業界、航空業界が3大業界として挙げられるが、コロナ禍を経験したことで、業界ごとに採用方針に差異が出始めてきたことが見て取れた。
人材採用に危機感を抱き、今までと異なったアプローチを試みようとしているのが、旅行業界とホテル業界だ。旅行業界に関しては、サービス連合情報総研の神田達哉氏が報告を行った。今月は旅行業界に関して考察をしていく。
旅行業界では、応募学生数の減少だけでなく、内定辞退者の増加が顕著となってきているとのことである。それはよく言われている低賃金を含めた労働条件の問題だけでなく、業界の不安定さや不祥事を起こす業界風土であるという認識も持たれ始めているということに起因していると、神田氏は分析している。また、旅行会社は、とくに大手においては、ソリューション事業、BPO事業への事業ドメインのシフトを目指しており、就業・就社目的とのミスマッチも起ころうとしている。また、旅をメインのドメインにしているときと比べても、ソリューション事業やBPO事業に関しては、求める人材像が変わってきているはずなのに、人事担当がそれを理解していないで、採用すべき人材像が不明瞭なまま進んでいってしまっているといった現状も報告されていた。
ただ、旅行業に関しては、面接担当者も、就活生から「見られている」という自覚が出てきているため、意識が大きく変わってきつつあり、低賃金で長時間の労働を求められるといった旅行業界の労働環境は改善されつつあるということも、最近変化している良い面として報告されていた。
さらに、懇親会での意見交換の中で、現場で旅行業に多くの卒業生を送り出す教員から、今まで旅行業を目指すタイプの優秀な学生が旅行業を選ばなくなってきているとの話を聞いた。(私のゼミ生に関してはまったくそんなことはないが……)その学生たちは、金融やコンサルに目が行くようになっているとのことである。これはとくに大手がソリューション事業やBPO事業への展開を声高に主張するため、当該分野をもともとのドメインにしている待遇面で恵まれている企業群に流れているというのは皮肉である。
神奈川大学国際日本学部・教授 島川 崇 氏
1970年愛媛県松山市生まれ。国際基督教大学卒。日本航空株式会社、財団法人松下政経塾、ロンドンメトロポリタン大学院MBA(Tourism & Hospitality)修了。韓国観光公社ソウル本社日本部客員研究員、株式会社日本総合研究所、東北福祉大学総合マネジメント学部、東洋大学国際観光学部国際観光学科長・教授を経て、神奈川大学国際日本学部教授。教員の傍ら、PHP総合研究所リサーチフェロー、藤沢市観光アドバイザー等を歴任。東京工業大学大学院情報理工学研究科博士後期課程満期退学。