「観光人文学への遡航(43)」 ライドシェア導入に対する疑問①
2024年1月22日(月) 配信
あまりにも拙速すぎやしないかと唖然とした。ライドシェアの議論である。
本当は、先々月からポストコロナの観光キャリア教育と採用の現在地を、旅行業、宿泊業と見てきて、今月は航空業を見るつもりであった。しかし、十分な議論も無しにあまりにもあっという間に決まってきたライドシェアに関して、これは無関心ではいられない、むしろ、これはライドシェアだけの議論ではなく、日本の公共交通、観光関連産業、いや、それにとどまらず日本の今後のあり方を左右する大きな分岐点に立っていると感じる。であるにもかかわらず、政府は単なるデジタル化の一環のような扱いでいつの間にか既成事実を作って国民が知らないうちに導入しようとしている。
この議論はもし引き返すことができるのならばここ数カ月が勝負なので、航空業の観光キャリア教育と採用の話題はちょっと延期して、急を要するこちらの議論を優先する。そして、論点は多岐にわたるため、今月1回では到底おさまらないため、今後数回はライドシェアへの疑問に関して述べていきたい。
何度も言うが、これは単にライドシェアがタクシーの穴を埋めるための枠組みを作るという代物では決してない。日本人が主体的に生きられるか、未来永劫搾取され続ける存在となってしまうのか、その分岐点である。
このコラムでは、ずっと人間の自由とは何かという議論をカントから神道を経て仏教へと範を求めて考究を深めてきた。人間の自由とは、そんな労働時間を自分で決められるといった表面的な自由ではない。そんなことで自由を得たと喜んではいけない。首根っこを得体の知れないものにつかまれ、公けの議論もできないまま、その得体の知れないものの意のままに枠組みが作り変えられる中に、一般市民が入れられることの恐ろしさをもっと知ってほしいと願って、この連載を続ける。
振り返ってみれば、昨年8月、菅義偉前首相が「ライドシェアを解禁すべき」と主張し、河野太郎デジタル担当大臣も解禁を主張した。
その後12月13日に、小泉進次郎衆議院議員ら有志の勉強会が提言を河野太郎デジタル行財政改革担当相に手渡したと思ったら、12月20日の「デジタル行財政改革会議」で、いきなりライドシェアを地域限定で今年4月に部分解禁することを決定したと報じられた。
ほとんど議論もされないまま、あれよ、あれよという間に導入のための枠組みが決められていったが、これはあっという間にまとめたのではなく、かなり用意周到にこの日を迎えたのではないかと考えざるを得ない。
引き返すのはまだ間に合う。市民一人ひとりが希望をもって生きられる世の中にできないのなら、観光立国なんかはもう御免だ。
神奈川大学国際日本学部・教授 島川 崇 氏
1970年愛媛県松山市生まれ。国際基督教大学卒。日本航空株式会社、財団法人松下政経塾、ロンドンメトロポリタン大学院MBA(Tourism & Hospitality)修了。韓国観光公社ソウル本社日本部客員研究員、株式会社日本総合研究所、東北福祉大学総合マネジメント学部、東洋大学国際観光学部国際観光学科長・教授を経て、神奈川大学国際日本学部教授。教員の傍ら、PHP総合研究所リサーチフェロー、藤沢市観光アドバイザー等を歴任。東京工業大学大学院情報理工学研究科博士後期課程満期退学。