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文化財にストーリーを

デービッド・アトキンソン氏
デービッド・アトキンソン氏

 文化庁(青柳正規長官)が6月29日に東京都・東京国立博物館で開いた日本遺産フォーラムで、認定審査委員が文化財に対するストーリーの重要性やこれからの観光のあり方を語った。審査委員を務める小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏の話を紹介する。
【丁田 徹也】

 昨年の訪日観光客数は約1300万人で、今年中には1800万人は届くと予測されていますが、私が観光状況を分析したところ、文化遺産や自然、食などのコンテンツのある日本は、現時点で外国人観光客が5600万人は来ていてもおかしくないという結果が出ました。現在の国際観光客数ランキングで日本は世界22位くらいですが、5600万人と考えると世界4位です。

 国際観光人口は1950年で2500万人、昨年は10億人を突破しています。30年には18億人になるとも言われています。現状の訪日客数では、18億人に対して0・9%のシェアも満たしていません。対してトップのフランスは8473万人(13年)。5600万人ベースであれば、2030年には8200万人に成長しているはずです。

 欧州で日本と同じような歴史・自然を持つ国であれば、国民数の4―5割が来るのは普通です。

先進国から来ない理由

 日本の歴史・文化や地方に関心を持つ先進国からの旅行客は200万人程度です。これは、日本を観光してもその価値を理解するための仕組みが整っておらず、彼らは何がどうなっているのか、つまり文化財のストーリーがわからないことから、日本を観光の選択肢から外しています。

 少し前に京都の竜安寺に行きました。(※アトキンソン氏は竜安寺の保存活動に関わっている)石庭の前で海外観光客が座っていてこんな会話をしていました。「この寺に国宝の庭があるらしいよ」。石庭を前にしたこの会話からすると、花の咲くお庭を期待していることがわかります。さらに「みんなが見ているシミだらけの汚い壁はなんだ」と続きます。衝撃的だったのは「これはもともと駐車場だったのかなぁ」です。「砂利が敷かれて障害物が置かれている。駐車場だ」と連想されたのかもしれません。

 彼らにとっては全然違う文化です。日本の文化や日本の良さを説明しなければ理解されることなく、単なる汚い壁と駐車場のままなのです。

お金を落とす仕組みを作る

 お客さんにお金を落としてもらわなければ観光は成り立ちません。お金を落とすチャンスを用意しなければなりません。それは観光ガイドや宿泊であり、そのためには一日楽しんでもらうための深いストーリーが必要になります。さっと観光してそのまま移動されては敵いません。外国人旅行者の支出の26%はホテル代です。日帰りだとJRが儲かるだけで地元にはお金が入りません。

相手の立場になる

 ここでもう一つポイントです。「来てもらいたい」という気持ちはわかりますが、相手の立場に立つことが大事です。単に「来てもらいたい」「お金を落としてほしい」というご都合主義では通用しません。

 遠い海外から来て、有休を使い、何時間も飛行機に乗り、そして何十万円のお金を使っていく、そんな人たちのために何をするのか、何を伝えればいいのかということを真剣に考えるべきです。深く長いストーリーを作らなくてはいけません。

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