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「観光革命」地球規模の構造的変化(270) 大阪・関西万博の行方

2024年5月3日(金) 配信

 大阪・関西万博は、来年4月13日の開幕まで残り1年を切った。残念ながら、盛り上がりを欠いており、今後の行方が心配になる。

 万博は19世紀に先進国による産業見本市として誕生し、その後に列強による国威発揚の場として使われた歴史を持つ。フランス・パリに本部を置くBIE(博覧会国際事務局)は1994年に「地球的課題解決の場」と万博を位置づけ直した。

 そのため大阪・関西万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」を基本テーマに掲げており、健康寿命や気候変動など「人類共通の課題解決」を標榜していることは妥当である。しかし展示の詳細が不明であり、70年万博の「月の石」のような目玉を欠いている。

 今のところ161カ国が万博への参加を表明しており、そのうち当初56カ国が参加予定であったタイプAパビリオン(参加国が独自に設計・建設)から8カ国が建設断念、16カ国が建設業者未定だ。タイプAは「万博の華」と呼ばれ、期待が集まるために万博の成否に影響する。工費高騰や人手不足による海外パビリオン建設の遅れが危惧されている。

 会場整備費は当初想定の2倍近い2350億円に膨らみ、運営費も1.4倍の1160億円に膨らむようだ。ハコモノに巨額の公費を投入し、催事で経済効果をはかる手法は「時代遅れ」という批判がなされている。

 万博の想定入場者は2820万人であるが、各種調査では万博に行きたい人の比率が下落し続け、気運が盛り上がっていない。気運低迷は万博協会がさまざまな批判に率直に向き合わず、開催意義理解を求める姿勢の不足が原因といわれる。

 ようやく万博協会は訪日外国人客の誘客に本腰を入れ始めたようだ。協会は海外から約350万人(全体の約12%)の誘客を目指している。しかし旅行会社サイドは万博そのものの内容や魅力が定かではないためにプロモーションへの意欲が高まっていない。今後は万博と国内観光地をリンクさせるツアーなどが企画されるようだ。

 建設業や運送業で時間外労働の規制が強化され、人手不足が深刻化する「2024年問題」が既に現実化しており、万博の行方は予断を許さない厳しい状況が継続する。今こそ「いのち輝く未来社会のデザイン」の本領が発揮されることを切に期待している。

石森秀三氏

北海道博物館長 石森 秀三 氏

1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。

 

 

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