「観光人文学への遡航(48)」 それでも晴れないライドシェアへの疑問
2024年6月1日(土) 配信
深く議論もされずにとうとうライドシェアが導入された。
先行して導入された東京、神奈川、愛知、京都の4都府県の一部地域と長野県・軽井沢町の計5地域に対して、国土交通省は、運行回数が5月5日までの約1カ月間で1万2628回、稼働台数は2283台であったと公表した。1時間当たりの乗車回数は、ライドシェアは東京が1・5回、愛知が1・3回、京都が1・0回などとなり、通常のタクシーの全国平均である0・7回よりも上回ったとし、斉藤鉄夫国交相は、タクシー不足の解消に「一定の効果が発揮されつつある」と評価した。
もうこのような発表が出ることからも、導入ありきで進んできたことが見え見えである。それこそ今回導入されたライドシェアは時間が限定されていて、供給と比べて需要の逼迫している時間帯に限られているわけだから、需要のない時間もまんべんなく運行を続けているタクシーと比較してライドシェアの方が上回るのは当然である。このような記事を出して、いかにも消費者からライドシェアの方が選ばれているような印象を持たせるのは、印象操作以外の何物でもない。
そして、続いて導入されていくのは札幌、仙台、さいたま、千葉、大阪、神戸、広島、福岡の8地域であることも発表された。どこも高需要の地域だけではないか。ライドシェアは「公共の福祉」の観点から、タクシーが不足している地域に新たな移動手段として導入されるのではなかったのか。
そして、今回はあたかも新たな法制度が創設されたかのような印象操作が行われているが、実際には、法改正をせず、道路運送法78条3号が定める「公共の福祉を確保するためやむを得ない場合において、国土交通大臣の許可を受けて地域又は期間を限定して運送の用に供するとき」に該当するとしている。
しかし、この条文は、とくに福祉的対応において、福祉施設やNPOなどが福祉輸送を実施する極めて例外的な場面に限定し、自家用自動車による有償旅客運送を許容しているのであって、このような「タクシーが足りない」といった単なる印象論に基づいて適用されるようなものではない。
結局、タクシーサービスが行われていないところをライドシェアが補完するということが最初に言われていたが、まったくそのような代物ではなく、高需要なところだけに導入されようとしている。
神奈川県では、大都市圏とともに三浦市でもライドシェアが導入された。三浦市こそ、本来のライドシェア導入のイメージに近い地域であったが、ここでは利用はかなり低調であった。三浦市の利用状況こそ、当初主張されていた本来のライドシェアのあるべき姿に近いものであり、この事例こそ、全国的に検討していくべきではないか。
神奈川大学国際日本学部・教授 島川 崇 氏
1970年愛媛県松山市生まれ。国際基督教大学卒。日本航空株式会社、財団法人松下政経塾、ロンドンメトロポリタン大学院MBA(Tourism & Hospitality)修了。韓国観光公社ソウル本社日本部客員研究員、株式会社日本総合研究所、東北福祉大学総合マネジメント学部、東洋大学国際観光学部国際観光学科長・教授を経て、神奈川大学国際日本学部教授。教員の傍ら、PHP総合研究所リサーチフェロー、藤沢市観光アドバイザー等を歴任。東京工業大学大学院情報理工学研究科博士後期課程満期退学。