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「観光革命」地球規模の構造的変化(271) 貧困大国・日本への危惧

2024年6月8日(土) 配信

 加齢のために疲れ易くなったので、大型連休期間中はどこも人出が多いだろうと予想して自宅で読書しながらのんびりと過ごした。その間に野口悠紀雄氏の近著「プア・ジャパン:気がつけば『貧困大国』」(朝日新書)を読んだ。野口氏は経済学の碩学で1940年生まれ、東大工学部卒業後に大蔵省に入省、その後、米国エール大学で経済学博士号を取得し、一橋大、東大、早大などの教授を歴任。

 本書の冒頭で野口氏は「日本の貧しさが、さまざまなところで目につくようになった。アベノミクスと大規模金融緩和が行われたこの10年間の日本の凋落ぶりは、目を覆わんばかりだ」と指摘。2000年には1人当たりGDPがG7諸国中で最上位だったが、現在は最下位に低迷。12年には日本の1人当たりGDPは米国と同水準だったが、現在は約3分の1に低下。

 野口氏は「日本衰退の基本的な原因は、日本の経済・社会の構造が世界の大きな変化に対応できなかったことだ。高度成長という成功体験のために経済・社会構造が固定化し、それを変えることができなかった」と指摘している。

 実は旅行・観光業界にとって哀しいことであるが、野口氏は「外国人旅行者の急増は『プア・ジャパン』の象徴」と論じている。要するに外国人旅行者の急増は日本の貧しさの結果というわけだ。日本の観光地の価値が高まったために外国人が高いお金を払って日本に来るようになったのではなく、日本での旅行や買い物が安くなったために生じた現象とみなしている。

 日本は世界の劇的な構造変化に対応できないままに、政府はさまざまな分野において補助政策を盛んに展開し、補助によって改革と創造の力が削がれて、甘えと依存の構造が広がった。野口氏は「現在の日本に必要なのは、補助ではなく、産業構造と社会構造の改革」と指摘し、「それを支える人材を育成することだ。人材こそが革新を生み、社会を変える。重要なのは、高度の専門的技術を身につけた人材が相応に報われる社会構造を作り上げていくことだ」と提言している。

 旅行・観光分野においても公的補助を求めるだけでなく、旅行・観光産業のシステム改革と高度専門人財の育成・確保に本気で取り組み、新しい旅行・観光のあり方を意欲的に創造する必要がある。

石森秀三氏

北海道博物館長 石森 秀三 氏

1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。

 

 

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