「観光革命」地球規模の構造的変化(273) 中央依存から地域自律へ
2024年8月18日(日) 配信
北海道の道北地域で7月24日(水)に記録的な大雨が降り、各地で河川の氾濫や増水が生じて、約7000人に避難指示が出された。札幌管区気象台によると、留萌市で記録された24日未明までの6時間雨量115㍉は、平年の7月1カ月分の雨量を超えていて、過去にないほどの激しい雨が短時間に降ったとのこと。
近年は地球温暖化などの影響で日本付近の海面温度が著しく高い状態が続いており、専門家は激甚水害の発生を警告している。気候変動に伴う激甚水害に対して、国土交通省はあくまでも従来通りの国土強靭化政策に固執している。要するにダムを造り、河川の堤防を高くして流量を増やすことを金科玉条にしている。そのため今年度の国交省公共事業関係費当初予算は約6兆円、そのうち国土強靭化予算は約4兆円。
一方、森林水文学の専門家は「氾濫せずに流せる流量を増やしても降水量がそれを上回れば必ず洪水が起こる」と警告している。降水量の劇的増加、インフラの老朽化、過疎化や森林放置など複合的要因が重なって、日本の従来の治水政策は限界に達している。そのため、むしろ山林の保水力・貯水力に着目して森林の維持管理への尽力が重要になる。
世界に冠たる森林大国・日本で6月から新税「森林環境税」の徴収が始まっている。1人年間1000円を個人住民税に上乗せされて徴収される。年に約600億円の税収は「森林環境譲与税」として自治体に全額配分される。
日本の森林面積の約6割が私有林、約4割が人工林で適切に間伐を行う必要があるが、所有者の高齢化や所在不明などで管理不十分による森林荒廃が深刻化している。森林環境税を活用して森林整備人財の確保・育成を行うことが必要不可欠だ。
北海道では人口減少が急激に進んでおり、若手人財の確保が急務になっている。政府は2009年に「地域おこし協力隊」を発足させ、都市部の若手人財が過疎地域で大活躍している。隊員の約65%が任期終了後も地域に定住しており、素晴らしい成果である。
日本はいま大きな曲がり角を迎えており、従来通りの中央政府主導だけでなく、地域の自律性が問われている。観光面でも地域における民産官学の協働による地域資源の持続可能な活用に基づく自律的な地域観光振興が不可欠になっている。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。