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「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(163)接客はフロアースタッフだけのものではない 「ここで良かった」と思わせる

2024年8月17日(土) 配信

 

 初めてのレストランで、スタッフがメニューを見せ「決まりましたら、お声掛け下さい」と案内しました。オーダーしようと顔を上げたとき、ちょうど料理を運ぶスタッフが近づいて来ました。小さく手を上げてサインを送りましたが、フロアスタッフは気付いてくれません。料理を運ぶことに一生懸命で、周りがほとんど見えていません。テーブルに料理を置くと、すぐに次の料理を運ぶため戻って行きました。

 今度は、少し大きな声でスタッフを呼びましたが、聞こえないようです。逆に周りのお客様から見られて、恥ずかしい気持ちになりました。人手不足と十分な教育ができずに、現場に送り出さなければならない現状が、多くの企業の悩みでもあります。フロア全体に気配りできるスタッフがそろっていないのでしょう。

 ただ、お客様に「ここで良かった」と感じてもらう方法は、フロアスタッフの接客だけではありません。料理で感動を創造するのはもちろん大切ですが、料理のおいしさを感じるのは舌ではなく脳です。脳に「ここで良かった。きっとおいしいに違いない」と思わせることが大切なのです。

 私が何度も利用するホテルやレストランでは、これを上手く活用しています。あるホテルの朝食会場では、卵料理コーナーのシェフが、お客様のオムレツを黙々と料理するだけでなく、お客様に一生懸命話し掛けながら、出来上がるまでの待ち時間を楽しいときに変えていました。別のホテルでは、シェフがメイン料理を厨房から運び、お客様にあいさつしていました。ふだん顔を見る機会のないシェフのあいさつに感動し、その日の料理のおいしさを何倍にも引き上げてくれました。

 カウンター席だけの、小さなレストランを訪ねたときです。最初のあいさつで、シェフが非常にシャイな方だと分かりましたが、料理をはじめる前には、魚や野菜などの食材を目の前で見せて説明してくれたのです。

 料理をされてしまうと、食材の元の姿は分からなくなります。また、馴染みのない、知らない食材は、説明されるだけではイメージもできません。食材を先に見せてもらうことで「おっ」という驚きや、新しい発見に出会えるうれしさを感じたのです。

 さらに感動したのは、タブレット画面を見せながら、「この農家が畑でつくられた野菜です」と、産地の風景や生産者とのツーショットの笑顔のようすを見せてくれたことです。市場で食材を仕入れるだけではなく、直接生産者に逢いに行き、確かな品質を感じたものを仕入れるシェフの姿と生産者の笑顔にも、非常に魅力を感じました。それが、そのレストランにリピートする大きなきっかけとなったのです。

 
 

コラムニスト紹介

西川丈次氏

西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。

 

 

 

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