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〈旅行新聞9月1日号コラム〉――日本の夏の旅行スタイル 「避暑地での長期滞在」に関心高まる

2024年8月30日
編集部:増田 剛

2024年8月30日(金) 配信

 今年の夏はとりわけ暑かった。7月から8月にかけての酷暑はある程度予想ができたので、「観光スポットを巡るような旅行はムリかな」と早期に諦め、夏休みを先延ばしにして仕事に励んだ。8月にまとまった休暇を取らなかったのは、おそらく社会人になってから初めてのことで、どうも自分のなかでは起伏の小さな、印象の薄い季節になりそうな感じがしていた。

 だから、8月終盤の週末に、どこか涼しい場所で過ごしたいと、旅先を探していたところ、群馬県渋川市の「伊香保グリーン牧場」のチケットを持っていたことを思い出し、以前から宿泊してみたいと思っていた伊香保温泉の名宿を予約した。

 「夏の避暑は緯度よりも標高の高い場所へ」は、私が長年数々の旅の失敗から得た経験則だ。伊香保温泉の標高は700~800㍍ということもあり、期待を込めて向かった。

 午前中に立ち寄った伊香保グリーン牧場の「シープドッグショー」はよく訓練された牧羊犬が山の斜面に散在するヒツジの群れを見事にスタッフの笛の指示通りに動かし、壮観だった。牧場ではウサギとの触れ合いもでき、自宅でお留守番をしているリクガメ同様に可愛くて癒された。冷房の効いたカフェでハーブティーを飲んだり、濃厚ミルクソフトクリームを食べたり、楽しい時間を過ごした。

 その後、昼食には定番の水沢うどんを食べ、少し時間があったので、異様な存在感を示す巨大寺院「佛光山法水寺」にも立ち寄った。長い階段を上る途中に日差しは強くなり、上まで行くことを諦めようと何度か思ったが、最後まで登り切った。

 宿泊予約した「千明仁泉亭」は、伊香保温泉石段街の真ん中辺りにある。365段の石段を何度か上り下りするうちに、佛光山法水寺の階段がボディブローのように効いてきた。昼間は暑かった伊香保温泉もチェックインと同時に雷雨となり、夜には涼しさを感じた。深夜には、館内のバー「楽水楽山」でジントニックを飲みながら、伊香保の静かな夜を満喫した。

 宿に20時間ほど滞在する間、源泉掛け流しの黄金の湯に何度も浸かり、雨に濡れた緑の山々を眺め、持ち込んだ葡萄酒でほろ酔いするなど、避暑地の宿で理想的な過ごし方ができた。

 今後、日本の夏の旅のスタイルは大きく変わるだろう。「避暑地での長期滞在」への関心がますます高まっていくはずだ。

 高原の宿は好立地を生かし、緑豊かな自然の中で涼しく散策できるコースが整備されているといいなと思う。滞在中には温泉にいつでも入れるように、幾つかの浴槽の清掃時間をずらしていくなどの工夫も必要かもしれない。図書室や、ゆったりくつろげるカフェ、エステなど、数日間滞在しても退屈しない環境づくりは、宿泊客の重要な選択基準の1つとなるだろう。

 一方、海辺の宿や、南に位置する宿でも十分に「避暑地」になり得ると思っている。

 私は毎年冬から早春に避寒地、避花粉地として沖縄を訪れる。だが、灼熱の夏も、夕方や早朝は島を吹き渡る風が心地よい。太陽が近い真昼は冷房の効いたホテルの客室で、青い海を眺めながらオリオンビールや泡盛、パイナップルワインを飲みながらくつろげると、私にとって沖縄は立派な「避暑地」である。真夏に涼しく過ごせる避暑地としての「定宿」を探すのが楽しみだ。

(編集長・増田 剛)

 

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