「観光革命」地球規模の構造的変化(275) 美味しい北海道
2024年10月4日(金) 配信
この原稿執筆中に自民党総裁選が最終盤に至っているが、日本の未来を託すのに値する宰相候補者がいない現実は驚くばかりだ。いくら愚痴をこぼしても虚しいだけなので、今回は北海道の美味しい話を取り上げたい。
今年の夏季休暇の際に妻と2人で北海道のオーベルジュを訪れた。北海道旅行の楽しみの一つは美味しい料理を味わえることであるが、とくに道内には多くの素晴らしいオーベルジュがあり、人々を口幸にしてくれる。
今回の旅行では道東・津別町のチミケップ湖畔のオーベルジュを訪れた。チミケップ湖は周囲約8㌔の小さな湖で、多くの野鳥や野生動物が暮らす原始の森に抱かれ、静寂の時を刻んでいる。湖畔のチミケップホテルは1987年開業(部屋数は7室)で、現在は渡辺賢紀シェフがオーベルジュを経営している。
渡辺シェフは、フランス、スイス、米国などの名店で修業を積んでおり、北海道の旬の食材を使った創作フレンチを提供している。美味しさは勿論のこと、見た目の美しさや楽しさを考えたコース料理で至福の時をもたらしている。
オーベルジュではワインが極め手となるが、北海道ではいま美味しいワインが数多く醸造されている。道内のワイナリーは、15年度は25カ所であったが、23年度は64カ所に増加している。道庁はブドウ栽培や醸造技術、マーケティングを学べる「北海道ワインアカデミー」を16年度からスタートさせている。これまでの受講者は約230人、その内29人が道内23カ所のワイナリーを開設している。道内で過去10年に増えたワイナリーの6割を占めており、大いなる成果を挙げている。
北海道大学は22年に「北海道ワイン教育研究センター」を設立している。ワイン生産には気象学、土壌学、栽培学、醸造学、農業工学などの知見が必要であり、ワイン産業の持続可能な発展のためには農業経済学、経営学、観光学などの知見が有効であり、これらの複数の学問分野を融合した教育研究と人財育成に貢献することが期待されている。
北海道は味覚資源の宝庫であり、農業・漁業・酪農業・畜産業などの第一次産業を担う人財の育成に注力すると共に、それらが生み出す味覚資源を観光産業などが最大限に生かしていくことが未来の繁栄の鍵になる。
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。