津田令子の「味のある街」「円揚げ」――辰巳(長野県安曇野市)
2024年10月13日(日) 配信
先月、一面に咲くキバナコスモスを見に、国営アルプスあづみの公園(長野県安曇野市)を訪ねた。2・5㌶の敷地に80万本がオレンジ色に彩られ、そよそよと風に揺れていた。
その帰りに買ってきたのが安曇野名産「円揚げ」だ。北アルプスの湧水が育てた新鮮なニジマスを背開きにしてカラっと揚げ甘味のタレで味付けした地元で人気のおかずだ。
頭から尾まですべてガブリと食べることができる。商品名の由来は、魚の頭と尾の部分がくっついて、きれいに円を描くので名付けたという。軽くさわやかな甘じょっぱさが後を引く。豪快にまるごとバリバリいただいたが、とにかく美味しくて、「ニジマスってこんなに美味しかったかしら」というのが正直な感想だ。骨周辺の食感のパリバリ感とコリコリ感がたまらない。対照的に実の部分のふっくら食感もしっくりくる。まるまる食べられるから栄養もたっぷりで元気になった気分にもなる。
信州サーモンやニジマスなどの川魚の養殖・加工・販売をなさっている㈱辰巳が誇る自慢の一品だ。誕生は25年ほど前。「鮮魚ではニジマスが売れなくなり、すぐに食べられるように」と思案したのが開発のきっかけ。総菜という発想も絶妙な味付けも先代(現会長夫婦)の着想だという。この商品はとにかく鮮度が勝負。水あげ後2~3時間以内、ニジマスの筋肉が生きているうちに急速に加熱することで、皮と身の収縮率の違いからでき上がりがくるりと丸くなる。丸く反り返った姿は、新鮮な証拠なのだという。
円揚げ定着のために学校給食への参入もはかり、今でも長野県内の多くの小中学校を中心に提供している。「給食で食べたいものランキング」で1位・2位をハンバーグと競うまでになった。安曇野のきれいな水で育てられたニジマスだからこそ生まれた名品。安曇野エリアの道の駅や直売所、スーパーでめぐり合えるはずだが、辰巳に直接予約して、出来立てを入手することもできる。円揚げを輪切りのトマトとレモンを絞りレタスで巻いて食べると頬っぺたが落ちるほど美味しいのだ。お試しあれ。
(トラベルキャスター)
津田 令子 氏
社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。