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〈旅行新聞11月1日号コラム〉――「良い宿」とは 食事会場で宿泊客が楽しそうなようす

2024年11月1日
編集部:増田 剛

2024年11月1日(金) 配信

 縁もゆかりもない土地だけど、不思議と何度も訪れる場所がある。私にとっては、それは秋田県の湯瀬温泉だ。

 ドライブ旅行でしばしば東北を訪れる。東北地方は北上すればするほど旅情が増してくるので、どこまでも北上したくなり、気づいたら本州の最北端周辺まで辿り着いてしまうことも多々ある。そして、帰りの宿泊地にちょうど良い位置にあるのが、湯瀬温泉なのである。

 湯瀬温泉は山間の小さな温泉地だ。親しみやすい価格の宿があるため何度もお世話になっている。今春には大間崎と竜飛岬をドライブした帰りに、亀の井ホテル秋田湯瀬に宿泊した。

 施設は決して新しくはない。客室もリニューアルされたスタイリッシュなデザインではなく、大型団体旅館によく見られる昔ながらの和室だ。それが妙に落ち着く。大浴場と露天風呂もあり、ビジネスホテルとは違った日本旅館ならではのくつろぎを感じることができる。地方の大型旅館のため、公共スペースや客室に“ムダ”とも思える空間がある。一見ムダに映るこの広々とした空間こそ、滞在客に心理的な余裕を与える。私が大型の旅館やリゾートホテルが好きな理由の一つでもある。

 朝食ビュッフェも宿泊料金にしては十分に満足できる内容だった。この宿は夜に、担々麺を無料でサービスしてくれる。遅い時間に到着した私にはとてもうれしいサービスだった。

 半年が過ぎ、この秋に再び青森県八戸市を訪れる機会があり、車で北上した。3連休の初日だったので、周辺のホテルや旅館は満室だった。空室があったとしても、背伸びをしても届かぬほどのラグジュアリーな宿ばかりで途方に暮れていたが、たまたま春に宿泊した亀の井ホテル秋田湯瀬にわずかな空室があったため、勝手知ったる宿に予約した。亀の井ホテルの売店には、カメのデザインのTシャツやパーカーが売っている。リクガメと暮らし始めて程なく4年が経つ私は、このカメのデザインの洋服が大好きなのだ。

 予約が直前だったため、今回も1泊朝食プランで宿泊した。大浴場で疲れを癒したあと、昼間に八戸市の八食センターで買った珍味とお酒で、秋田の夜を過ごした。そういえば、車の中に忘れ物をして取りに行ったとき、広大な駐車場を、懐中電灯を照らしながら見回っていた若いスタッフに出会い、「こんばんは」と明るく声を掛けられた。宿泊客の多くは知らないのだろうが、夜間のこういう配慮が安心感を与えてくれる。

 翌朝、訪れたビュッフェ会場は、とても活気に溢れていた。

 宿泊料金や規模に関係なく、食事会場で宿泊客が楽しそうであれば、その宿は「良い宿だ」というのが私の基準だ。

 会話の無い、どんよりした雰囲気が漂う食事会場も何度も見てきた。しかし今回訪れた亀の井ホテル秋田湯瀬の朝食会場は、子供たちも、大人も笑顔に溢れていた。多くの宿泊客は、温泉旅館で過ごして楽しかったと感じているのが伝わってきた。宿の原点に触れた気がした。

 今、日本の人気観光地や温泉地では外国人旅行者の姿が目立ち、日本人の宿泊客、とりわけ子供たちや若い人たちを目にすることが少なくなった。浴衣姿の日本人が大型大衆旅館で楽しそうに過ごしている姿が、ぼんやりと在りし日の昭和的な情景に映り、ふと懐かしさが甦ってきた。

(編集長・増田 剛)

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