「観光ルネサンスの現場から~時代を先駆ける観光地づくり~(239)」 「静岡遺産」への期待(静岡県)
2024年12月8日(日) 配信
2015年から始まった日本遺産は、現在104件が認定されているが、当面は新たな認定は予定していない。
このようななか、静岡県では22年から独自に「しずおか遺産」の認定に取り組んでおり、筆者も参加している。
都道府県や市町村などが独自に「地域遺産」を認定する例は少なくないが、その草分けは、1997年に堀達也北海道知事(当時)が提唱した「北海道遺産」であろう。堀氏は「北の世界遺産構想」を提唱、道庁内にプロジェクトチームや民間有識者による委員会、のちに「北海道遺産構想推進協議会」などを設立して、その推進をはかった。最新の2022年の第4回選定で合計74件が選定されている。道民自身が残したいと思う「北海道遺産」を推奨し、その保存・活用の活動を通じて北海道に新たな活力を生み出し、町おこしにつなげようというものである。
一方、「しずおか遺産」は、15年に創設された日本遺産を意識して創設された。認定基準や補助制度の仕組みなどは、ほぼ日本遺産と同じである。ストーリーの興味深さ、斬新さ、訴求力、希少性に加えて、「静岡らしさ(地域性)」という点を強調している。日本遺産では、活用のための具体的ビジョンや地域活性化を推進する体制の整備などを求めているが、しずおか遺産でも、同じである。
県独自の審査委員会を設け、これまでに5件の「しずおか遺産」が認定された。22(令和4)年度は「近代教育に情熱をかけたしずおかの人の結晶」(磐田市ほかシリアル)、「秋葉信仰と街道」(浜松市ほかシリアル)、「文学の聖地『伊豆』と温泉」(伊豆市ほかシリアル)。そして23(同5)年度は「文武に秀でた今川一族」(藤枝市ほかシリアル)、「日本平が紡ぐ悠久の歴史文化回廊」(静岡県・静岡市)などである。
第1号認定となった「近代教育に情熱をかけたしずおかの人の結晶」では、明治の新時代、新しい世の担い手となる若者教育に力を注ぐため、1872(明治5)年の学制発布とともに、静岡県内でも洋風の外見をもつモダンな校舎が多数造られた。これら学校群は、子供たちが初めて体感した「近代」であり、地域の人々に愛され、今も語り継がれている。まさに「しずおか人」の教育にかける意気込みを今も伝える地域の誇りである。
紙面の制約で、個々の紹介はできないが、大切なことは、しずおか遺産のストーリーを地域の人々が深く知り、多くの人々が、これらを継承・活用する活動に参画することであろう。
日本遺産も、創設からやがて10年。大切なことは、遺産活用のための体制(組織)やこれを担う人材である。遺産を生かす観光などの活用はもとよりだが、地域の遺産を通じて、地域の人々が誇りを取り戻すとともに、地域活性化の当事者として活躍することが何よりも重要であろう。
(観光未来プランナー 丁野 朗)