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「観光革命」地球規模の構造的変化(277) 少子化と旅育推進

2024年12月3日(火) 配信

 日本政府観光局は1~10月の訪日外国人客数が3019万人となり、過去最速のペースで3千万人を超えたと発表している。年間訪日客の最多記録は2019年の3188万人だったが、今年は3500万人を超える可能性が大である。政府は既に30年に訪日客数6千万人の目標を掲げている。

 一方で各種の人口統計では少子高齢化の進展に伴う労働力不足の深刻化が指摘されている。中央大学とパーソル総合研究所による共同調査では、23年の労働力不足は189万人、30年は320万人、35年は384万人と推計されている。また厚生労働省は今年の出生数が全国で初めて70万人を割る公算が大と発表しており、将来の働き手がさらに減ることが明らかである。

 日本ではほとんど知られていないが、11月20日は「世界子どもの日」である。1954年に「世界の子どもたちの相互理解と福祉の向上」を目的にして国連が制定している。また児童基金(UNICEF)は先進・新興国38カ国に住む子供たちの幸福度を調査した報告書を20年に公表している。この報告書では「精神的な幸福度」「身体的健康」「学力・社会的スキル」の3分野で評価を行っている。

 子供の幸福度の総合順位で日本は38カ国中の20位、米国は36位。日本は「精神的な幸福度」分野で38カ国中の37位。日本の子供は生活満足度の低さ、自殺率の高さから最低レベルの評価になっている。

 日本の将来を担う子供たちが「精神的な幸福」をあまり感じていないのは重大な問題である。私は長年にわたって「旅育推進法(仮称)」の必要性を提唱し続けている。旅行をとおして、子供たちがさまざまな未知の自然や人間、未知の物事に触れることによって、生きていることの幸せを感じられるように配慮するのは「大人たちの責任」である。

 極めて単純なことであるが、子供たちが精神的に幸福を感じられない国に「輝ける未来」があるとは想定し難い。子供の立場で「日本の未来を考える」こともまた大切であり、観光産業の関係者はもっと子供たちのために観光や旅行を生かす方策を考えるべきだ。旅育を通して旅行の大切さを感じた子供が将来的に旅行分野の仕事に誇りと生き甲斐を抱いて従事できることを期待している。

 

石森秀三氏

北海道博物館長 石森 秀三 氏

1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。

 

 

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