「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(167)雨の日のおもてなし 心配りで晴れやか気分
2024年12月15日(日) 配信
雨の日は誰にとっても不快なものです。そんなある日、傘を持っていない私は出張先でタクシーを利用しました。激しい雨に私は、タクシーを降りたあとのことを考えていました。「途中でコンビニに寄って傘を買おう」とも考えましたが、目的地に向かい打ち合わせを先に済ませることにしました。
目的地に到着したとき、ドライバーから「傘をお持ちじゃないみたいですが」と声を掛けられました。乗車時のようすを見ていたようです。ドライバーは、「トランクにある傘でよろしければお持ちになりますか」と提案してくれました。
「いや、お返しする機会がないので」と返事をすると「お返しいただかなくても結構ですよ。不要になったら、駅とかに寄付してください」と笑顔で言ってくれたのです。本当に助かりました。おかげでその日は雨に濡れずに予定を終えられました。それ以上にドライバーの言葉に、気持ちの良い1日を過ごすことができました。
大阪空港には、ゴミ箱に捨てられた傘を活用した、無料の傘のリユースサービスがあります。雨に降られて困ったとき、何度か利用しました。逆に、空港まで使用していた傘を出張先で使わないと思えば、そこに置いて行くこともあります。
ある飲食店では、忘れ物の傘を一定期間預かったあとに「返してもらわなくても構いません」と、お客に貸し出していると聞きました。すると「先日は助かりました」と、傘を持って後日来店する人もいるようです。
先日、飲食店スタッフの研修を行いました。その中で、「雨の日の迎え入れ対応」を実施しました。あるスタッフは、お召し物や荷物が濡れているだろうと、タオルを用意してくれました。すべてのお客様にタオルを用意することは飲食店では難しいでしょうが、こうした想いを持ち続けることが、新しいサービスを生み出す根っことなるのです。
旅館やホテルでは、さらにその可能性は高まります。雨に濡れたお客様を、そのままお部屋に案内することはできません。それを当たり前としない想いこそが、それからはじまる滞在に良い印象を持ってもらえるのです。
サービス業に従事する私たちにとっても、雨の日は嫌なものです。お迎えするお客様にいつもの笑顔がなければ、私たちも決して晴れやかな気分でお客様を迎えることはできません。ただ、そんな日だからこそ、私たちがお客様に気持ちよく過ごしてもらうことを考えるべきでしょう。
雨の日に行った飲食店では、入口にてるてる坊主が掛けられていました。それを見つけて思わずニッコリとした記憶があります。こうした行動は、旅館はもちろんタクシーやバスでも活用できるのではないでしょうか。
コラムニスト紹介
西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。