津田令子の「味のある街」「おせんだんご」――大黒堂(東京都豊島区)
2024年12月14日(土) 配信
先日、街歩きの仕事で東池袋から雑司ヶ谷周辺を歩いた。途中、竹久夢二や夏目漱石が眠る雑司ヶ谷霊園、アメリカ人宣教師だったマッケーレブが居を構えていた旧宣教師館などに立ち寄り、大イチョウの黄葉が始まったばかりの鬼子母神を訪ねた。
豊島区雑司ヶ谷3丁目にある雑司が谷の鬼子母神堂境内は、樹齢600年を超す大イチョウと日本で一番古い駄菓子屋さんがあることでも知られている。
駄菓子屋さんは、上川口屋という名前で、看板には創業1781年と記されている。その目の前にあるのが、「おせんだんご」で有名な大黒堂だ。江戸時代からの鬼子母神参拝の名物として欠かせないものだった。
安産・子安の神様として信仰を集める鬼子母神堂境内の本堂右にある大黒堂は、店内に大黒天像を祀っているお休み処なのだ。土・日、祝日と縁日を中心に開堂しており味わうことができる。その名前は、鬼子母神に1000人の子供がいたことにあやかり「子宝に恵まれるように」という願いに由来する。
おせんだんごは長い間廃絶していたが、羽二重団子の7代目となる当主・澤野修一さんが復活させた。「吾輩は猫である」にも登場する羽二重団子風のおだんごということだ。羽二重団子は串には4個の団子が刺さっているのに対し、おせんだんごは5個。安産子育てと子孫繁栄を祈願する意味だという。
早速、注文してみた。まん丸ではなく平べったい形の焼団子と、あん団子が一本ずつ。温かいお茶がついてきた。焦げがいい感じの焼き団子にあんこで包んだ甘すぎないあん団子。焦げの方をひとくち食べてみる。
「わぁ美味しい」。ほんのり醤油の香りで素朴な味。あん団子はあんこが甘すぎず何本でも食べられるほどさっぱりだ。
江戸期より雑司が谷鬼子母神境内には、多数の茶屋、料理屋が立ち並んでいたというが、いつしかそれらが姿を消し、一軒の茶屋で売られている「おせんだんご」。賑やかだった当時の面影はないけれど、参道を歩きながら、あのころに思いを馳せ大黒堂の椅子に座り食してみては。
(トラベルキャスター)
津田 令子 氏
社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。