【特集No.664】2025年新春インタビュー 井門隆夫氏に聞く 旅館業の未来を考える
2025年1月1日(水) 配信
大企業や外資から資本投下される都市部のホテルと、地方の過疎地域にある旅館との労働生産性の格差が拡大するなか、旅館の未来をどのように描くか。最多人口世代「団塊の世代」のための旅館サービスを50年間続けてきたが、今、まさにこの世代特有の旅のスタイルが終焉を迎えようとしている。國學院大學観光まちづくり学部教授の井門隆夫氏は旧態依然とした考えから離れ、新たな発想による価値転換と、「地域社会とのつながり」の重要性を語る。
【本紙編集長・増田 剛】
□宿は地域社会の維持・再生を
――旅館の現状についてどのように見ていますか。
宿泊業の労働生産性は日本経済と歩調を合わせて1970年代ごろからずっと上がっていました。しかし、1993年の金融制度改革法施行以降、とりわけ大企業に外国資本が自由に入ることが可能になったことで、資本金5千万円以上の大企業と、ほとんどが5千万円未満の中小企業である旅館業の労働生産性の格差が拡大してきました。
大企業や外資から資本が投下される「都市部の不動産価値の高いエリアのホテルは稼げる」が、「地方の過疎地域にある旅館は稼げない」構図が明確化しており、同じ宿泊業であっても別業態と考えた方がいい状況になっています。
オーバーツーリズムが話題になっていますが、過疎地を切り捨てて、都市部にのみ集中して新規出店する不動産投資がこの現象を生んでおり、「株主利益の追求」に行き着いてしまいます。
一方、中小企業の大部分はオーナー企業であり、株主=経営者です。同様に誰のために生産性を上げるかを突き詰めると、「経営者(自分)の利益のため」となります。
このように考えると、旅館の労働生産性向上を最優先させることが果たして正しいのだろうか。生産性を上げて、株主のために利益を伸ばし続けることだけがすべてではないと考えるのであれば、「地域や従業員のために還元した方がいい」と割り切るのも1つの考え方です。
過疎地域にある旅館も新たな視点によって、これまでになかった需要を取り込む大いなる可能性を秘めています。地域の行政や金融機関などが一体となって理解が進んでいる観光地や温泉地には、新しい旅のスタイルに合致する旅行者がどんどん訪れています。
城崎温泉(兵庫県)や、天童温泉(山形県)などは……