2016年度「第1回見える化プロジェクト」旅館経営研究セミナー&厨房運営の視察見学会
革新的な厨房運営へ―ホテル天坊(伊香保温泉)視察
2月17日、主催:旅行新聞新社・品質管理センター
旅行新聞新社(石井貞德社長、東京都)と品質管理センター(松本麻佐浩社長、福岡県)は2月17日、群馬県・伊香保温泉のホテル天坊(伊東實社長)で2016年度「第1回見える化プロジェクト」旅館経営研究セミナーと、厨房運営の視察見学会を開いた。当日は全国各地から旅館・ホテル経営に携わる75人が集まり、労働生産性に特化した同ホテルの革新的な厨房運営事例について熱心に耳を傾けていた。
昨今の旅館業界の現状では、公休未消化・残業時間の発生が当たり前となっており、調理従事者には過酷な労働時間が強いられている。また、このような労働環境下で“調理人不足”は喫緊の経営課題であり、伝統ある日本料理調理人の待遇の改善は、もはや急を要す事態へと発展している。
ホテル天坊では昨年の1―6月まで耐震対応と、1・2階を中心とした改装工事を実施。その際2階にある厨房を、耐震工事にともない全面改装した。同ホテルでも昨今の旅行業界の現状と同様に、調理部門のES改善が問題視されていた。そこで、同ホテルでは厨房の全面改装に合わせ、調理部のなかを、加工や加熱など実際の調理に関わるエリアと、調理以外の盛付などのエリアに分類するいわゆる「レシピー化による調理プロセス」を実践した。
レシピー化とは各自の仕事において、調理加工のプロセス別に作業時間・作業内容を“見える化”することで、同ホテルでは主に(1)調理加工に関する項目(2)調理作業人に関する項目(3)その他(衛生区分など)に関する項目――の3点をレシピー化した。1つ目の調理加工に関する項目では各作業部門別に1日の作業内容を明示する調理加工作業指示書をパソコン上で確認し、予約数に応じた食材の使用量を予想するシステムを導入した。2つ目の調理加工人に関する項目では、調理社員たちの作業効率をレシピー化するために、作業指示書と同様にパソコンで各作業段階別の作業時間を検証した。これにより、作業段階別の作業時間が明確になり、各調理工程に必要な人数を確認することが可能となった。
また、さらなる生産性の向上に向けて、システム導入以前より進めてきた「煮方」「焼場」「刺場」などの縦割り運営の見直しを行った。今までの調理工程では、業務数が多く、高度力量の作業と低力量の作業が混在しており、非常に生産効率が悪い調理場であった。しかし、プロセス調理に切り替え、プロセス別に力量の高いモノと低いモノを集めることによって、作業の一極集中化をはかったことにより、作業効率が向上し、力量別の作業運営システムが確立されたという。
レシピー化による調理プロセスに切り替えた結果、同ホテルでは従来方式の運営時よりも作業時間が30%以上削減され、(1)材料の取り出し・加工後の冷蔵庫収納時間の短縮(2)移動時間の縮小による調理場の時短の向上(3)集中作業により調理作業の効率が向上――などが改善され、労働生産性が向上した。
このほどの全面改装による革新的な厨房運営について、同ホテルの伊東社長は「今回の改装は効率重視の調理場にするための思い切った改装だった。我われホテル業はお客様の評価があってこそ営業ができている。生産性の向上には難しい課題が多いが、今後も改善に努めていく」と話す。同ホテルの齋藤俊彦調理長は、「縦割り運営時代は調理棚がその日使うものなどで混在しており、隅々まで掃除が行き届いていなかった」と語り、「今回の見直しによって、調理人の仕事が分業化され、各自が自分の仕事に従事できる調理場になった」と、同プロセスによってたしかに生産性が向上していることを報告した。
■調理が「楽しく」なる厨房レイアウト
旅館業界の調理設備の現状の問題点として挙げられるのが(1)清掃がしづらい(2)シンク排水管の殺菌ができない③排水溝の殺菌ができない(4)人間工学に基づいていない――などの問題点である。
ホテル天坊でも全面改装以前は同様の問題を抱えており、床清掃を行う場合は、一度物品の移動を行わなくてはならないため清掃時間が長くなり、清掃意欲も低下していた。
そこで同ホテルでは、全面改装に合わせ現状の課題を解決すべく、厚生労働省が推奨する食品の製造・加工工程のあらゆる段階で発生する恐れがある微生物汚染などの危害をあらかじめ分析。その結果に基づいて、より安全な製品を得るための重要管理点を定め、これを連続的に監視することによって製品の安全を確保するHACCP(ハサップ)に対応した厨房を導入した。
冷蔵庫の写真を見てほしい。冷蔵庫は清掃を可能にするために「移動式棚」の収納に変更。仕込み品食材は、規格収納容器で統一し、加工日・賞味期限を明示することによって食品の混在を防ぐ工夫が盛り込まれている。また、作業台は高架台の移動式のものを導入し、清掃しやすい環境に変化させた。そのほか、重たいモノを抱える運営方法をなくすため、物品等の移動にはすべてカート方式などを採用したことにより、衛生面の確保と、生産性の向上が担保されたという。
HACCP対応の厨房の導入により、同ホテルでは厨房機器購入予算を30%前後削減することに成功。機器点数が少ない分、改装前と同じ床面積でも、スペースを十分に活用することが可能となった。また、加熱ゾーンも隔離されたため、夏場でも厨房が暑くならず、快適な環境下で作業ができるようになった点も、厨房改革の1つの利点である。
同ホテルはレシピー化による調理プロセスや、HACCP対応厨房の導入など、革新的な厨房運営によって、労働生産性が向上したが、労働生産性の向上と同様に重要になるのが、衛生面の対策(ノロウイルス対策など)である。同ホテルがある群馬県では過去に、食中毒の発生により営業停止になった旅館があり、ノロウイルス・食中毒への対策は、調理場の検便検査だけでは不十分の事態へと発展している。
同ホテルでは、(1)浴場汚染・館内汚染による感染(2)食事食器による感染――の2系統からの感染を予防するため、電解水装置による殺菌を実施。以下で同ホテルが実践している電解水装置によるノロ・食中毒対策について迫る。
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ノロウイルス対策に高い関心
調理場のノロを防ぐ! 電解水装置の役割
ノロウイルス・食中毒対策は、セミナー出席者のなかでも非常に関心の高い話題であり、ホテル・旅館業界の現状では、調理場のノロウイルス対策が十分に行われておらず、院内感染と同様に、「館内感染」によって調理人も汚染を受けている。現在の状況では調理場も〝被害者〟なのである。そのような汚染環境を回避すべく注目されているのが電解水装置による殺菌だ。今回、厨房視察を行ったホテル天坊でも、厨房の全面改装を機に電解水装置による殺菌を導入した。ここでは同装置利用による最新の感染症(ノロウイルスなど)対策を紹介する。
現状のノロウイルス対策として、食品調理加工施設はもちろんのこと、日常生活における衛生管理には、消毒用アルコールが信頼性の高い消毒剤として大きな役割を果たしている。
しかし近年は、社会的な食中毒感染症問題を引き起こしているノロウイルスに対する効果が低いことから、アルコールをベースとする衛生管理の信頼性が揺らいでおり、より効果的なノロウイルス対策の確立が求められている。
こうした状況のなか、食品添加物(殺菌料)に指定されている次亜塩素酸水(酸性電解水)が、ノロウイルスを含め広範な食中毒病原菌に著効を示し、流水洗浄という従来の殺菌料や消毒剤と異なる使用法で食材・調理器具・手洗いを含めて食品分野の衛生管理に威力を発揮することが明らかになった。
このことから厚生労働省は2013年に、「大量調理施設衛生管理マニュアル」や「浅漬けの原材料の殺菌」、その翌年には「生食用鮮魚介類や生ガキ等」への使用許可に関する文書を都道府県宛てに通知。また、機能水研究振興財団からは「次亜塩素酸水生成装置に関する指針」や「ノロウイルス対策と電解水」など次亜塩素酸水の品質(物性規格)、有効性や安全性に関する標準化された知識や使用法が提供されている。
機能水研究振興財団の堀田国元理事長は、次亜塩素酸水(HClO)と次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の違いについて「両者は化学的には同類です。しかし、両者には大きな相違がさまざまあります。まず、殺菌効果については、次亜塩素酸水は酸性であるため殺菌成分(HClO)比率が85―95%と高く、広範な食中毒原因菌に対して高い殺菌活性を示します。有機物の少ない同条件下での試験において40ppmの次亜塩素酸水は1千ppmの次亜塩素酸ナトリウム溶液と同等以上の殺菌活性を示すことが知られています」とし、次亜塩素酸水は次亜塩素酸ナトリウム溶液やエタノールに比べてはるかに高い不活化活性を示すと両者の違いを明確にした。
衛生的手洗いの比較試験を行った成績では、電解水手洗い(強アルカリ性電解水で洗浄後に、強酸性電解水=強酸性次亜塩素酸水で洗浄)は、手指の汚れには石鹸と、一般殺菌に関してはアルコールと同様の効果があることが確認されている。東京都健康安全研究センターで行われた、各種の殺菌料を用いた衛生的手洗い試験においても、強酸性電解水(強酸性次亜塩素水)による手洗いはノロウイルスに対して、物理的除去に加えて不活化効果があることが報告されているという。
堀田理事長は使用方法と安全性についての相違点に触れ、「使用方法に関しても、次亜塩素酸水はユーザー自らが装置を作動して生成し、そのまま希釈せずに新鮮なうちに流水使用します。それに比べ、次亜塩素酸ナトリウム溶液は高濃度(4%以上)の市販製品を目的使用濃度に希釈して浸漬使用するという違いがあります。そして安全性に関しては、次亜塩素酸水は『人の健康を害する恐れがない』という理由で食品添加物に指定されました。実際、皮膚や口腔内の粘膜に対してもほとんどダメージを与えないため、生体に使用でき、頻繁に手洗いをしても手荒れが少なく、人体を直接洗っても、誤飲してしまっても健康被害がでないほど安心です。また、臭さ(塩素臭)がほとんどなく、屋外環境に対する影響も少ないという利点があります。従って、次亜塩素酸水は人にも環境にも優しく、水道水感覚で使える殺菌料といえます。一方、次亜塩素酸ナトリウムはアルカリ性のため、皮膚粘膜にダメージを与えるため、手洗いなど体に直接用いることはできません」と述べ、改めて電解水の効率性と安全性を強調した。
ホテル・旅館業界において電解水を理解し、使いこなしていくことは決して難しいことではない。食品分野における5S(整理・整頓・清潔・清掃・躾)を基本として電解水を使用するうえでの2S(洗浄・消毒)を心がけて使用すれば、人にも環境にも安全性が高く効果的という電解水の特徴を発揮させることができる。
現在、電解水は日本で生まれ育った革新的衛生管理技術として、海外においても導入が広まりつつあり、今後、食品分野において急速に広まっていくことが期待されている。全国のホテル・旅館が今後、革新的な厨房運営を行っていくうえで、電解水装置による殺菌は必要不可欠なものになるだろう。
なお、詳しい次亜塩素酸水に関する知識や情報は、機能水研究振興財団のホームページ(http://www.fwf.or.jp)から得ることができる。