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「観光革命」地球規模の構造的変化(280) 観光嫌悪症と旅育推進

2025年3月16日(日) 配信

 日本政府観光局は今年1月の訪日外国人旅行者数(推計値)が378万人になり、単月過去最高を記録したと公表した。国・地域別の上位は中国98万人、韓国96万人、台湾59万人、香港24万人、米国18万人、豪州14万人など。アジア市場における旧正月に合わせた旅行需要の高まりやウインタースポーツ需要などによって、新年早々から観光業界が活気づいている。

 一方で大都市圏を中心にしてオーバーツーリズム問題によって地元市民の日常生活に多大なる悪影響が生じているが、外国人旅行者の行動規制や受入規制は容易ではない。さらに日本人旅行者も交通機関の大混雑や宿泊施設の料金高騰などによって国内旅行を控える人が増えている。このままインバウンドが順調に増え続けると、観光庁や観光業界にとってはこの上ない吉事となるが、ごく普通の庶民的日本人にとっては凶事(観光嫌悪症)になることが危惧されている。

 07年に施行された観光立国推進基本法第2条(施策の基本理念)では、豊かな国民生活の実現、国際相互理解の増進、観光産業の国・地域の経済社会における重要な役割と共に、「観光が健康的でゆとりのある生活を実現する上で果たす役割の重要性にかんがみ、国民の観光旅行の促進が図られるように講ぜられなければならない」と明記されている。

 しかし現実には観光庁や観光業界はインバウンド富裕層をターゲットにした稼げる事業の促進を最重視し、国民の観光旅行の促進は副次的だ。そのうえに諸物価高騰や貧困化の進展で、旅行を楽しむことができない国民が増えている。とくに日本の未来を担う子供たちが旅の楽しさを経験できないことはもっと問題視されるべきだ。

 日本では05年に「食育基本法」が施行されているが、「旅育」もまた重要だ。非日常の時空間の旅行によって、未知の世界・人々・物事と出会う。そのような未知との出会いを通じ、子供たちは豊かな人間性を育み、生きる力を身につけることができる。そのため「旅育推進法(仮称)」を制定し、公的資金を投入して、日本の未来を担う子供たちのために是非とも旅育推進をはかるべきだ。

 観光庁や観光業界は稼げる観光事業推進だけでなく、国民の健全な観光旅行の促進にも真摯に尽力すべきだ。

 

石森秀三氏

北海道博物館長 石森 秀三 氏

1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。

 

 

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