雨の季節 ー 宿をもっと知ってもらえるチャンス
全国的に梅雨入りした。雨の季節である。
雨が降ると、テーマパークなどは、客足が鈍るため、雨の日には特別なプレゼントを用意する施設も増えた。会社近くのイタリアンレストランも、雨の日には、クッキーをプレゼントする。粋なことをするもんだな、と思った。
旅館やホテルは、季節ごとに魅力的なプランを販売する。春ならば桜、夏は自然体験、避暑地、家族プランなど。秋は紅葉、冬は雪などをテーマに誘客をはかる。だけど、6月の梅雨時期はあまり積極的にアピールをされていないように感じる。
6月は、祝日がない唯一の月である。ゴールデンウイークと、夏休みに挟まれ、確かに「旅の季節」というムードを醸しづらい。観光業にとって難しい季節であるが、雨はそんなにマイナスなのだろうか、とも思う。需要の平準化が観光産業全体、そして一つひとつの旅館・ホテルにも大切である。雨季をいかに需要に結びつけるか、智恵の絞りどころでもある。
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クルーズ客船は、乗客に向けてさまざまなメニューを提供している。海原の旅のため、天候は常に不安定だ。デッキで海を眺めたり、屋外プールで遊んだりできない日もある。そういう日には、船内でシアターやバー、レストランなどで楽しめるアトラクションやゲーム、知的好奇心をくすぐる講義など多数プログラムを用意している。大型旅館やホテルでは、参考になる部分は多い。一方、小規模の旅館などは、「なかなかそこまではできない」と思われるかもしれない。しかし、それでも雨の日に宿で過ごす魅力を伝えることは可能だ。
私は会社勤めの身なので毎日スーツを着て雨の中を電車に乗って通勤しなくてはならない。このため、雨は優鬱な気分にさせることがある。だが、これが休日で、どこか風情のある温泉街の宿で過ごすとなれば、返って雨の日を歓迎したくなる。
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6月の木々の緑は鮮やかである。重い雲に覆われた銀色の世界に、蛍光色のように新緑の葉が輝く。雨が降れば涼しい。宿の窓辺に座り、雨樋を伝い、軒下に落ちる雨音を聞きながら、庭や森林、海をぼんやり眺めるのは贅沢である。
温泉も、雨の日がいい。木々や土、岩の濡れた匂いが懐かしさを呼び起こす。地中から湧き出る温泉に浸かりながら、長い時間自然との対話ができるのも、この季節ならではだ。
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子供づれが少ない6月は、「大人が静かに過ごせる季節」として売り出すのも一つだ。にぎやかなGWや夏休みにはない、宿の過ごし方を好む層にアピールできる。
館内のラウンジやバーでも、季節の落ち着いた料理やドリンクのメニューを提供する。夜には、照明を落とし、静かにジャズやピアノの演奏をする。
繁忙期には忙しくてできなかったが、やりたいと常々思っていた企画を、この時期に思い切って試すこともできる。スタッフも少し余裕が生まれるので、宿泊客とのコミュニケーションをいつもより少し多めに取ることも可能だ。
旅館やホテルにとって、雨の日は自分たちの宿をもっと知ってもらえるチャンスでもある。「長逗留して、何もしない時間」の魅力を教えてほしい。
6月は、大人が宿で静かに過ごす時間として定着することを願う。
(編集長・増田 剛)