「観光ルネサンスの現場から~時代を先駆ける観光地づくり~(243)」 発酵食文化を海外に(愛知県)
2025年4月4日(金) 配信

和食がユネスコ無形文化遺産に登録されて既に10年。昨年12月には「伝統的酒造り」が同じく登録された。近年は、これら和食や日本酒などが世界的ブームにもなっている。
和食には不可欠な味噌、醤油、酢、みりん、酒などはすべて発酵食品である。温暖で湿度の高い気候風土を生かした日本特有の食文化と言える。
愛知県半田市などの知多半島や岡崎などの三河エリアは、そんな発酵食品が集積する日本有数の「発酵王国」とも言われる。
2月下旬、その拠点の1つ岡崎のカクキュー味噌とまるや味噌の工場を訪ねた。いわゆる「八丁味噌」は、米麹や麦味噌を用いず、原料大豆のすべてを麹にした豆麹でつくられる豆みそである。岡崎城から八丁離れた旧八丁村(現在の岡崎市八丁町)に立地し、江戸時代初期から、旧東海道沿いの2軒の老舗が伝統製法で造り続けている。
両社はこの地域で盛んな「産業観光」の受入拠点の一つとして、多くの観光客が訪れている。ただ、海外からのインバウンド客はまだまだ少なく、また周辺の小さな白しょうゆや味醂蔵などは、十分な受入態勢がなく、体系的な情報発信もできていない。
そこで昨年度以降、愛知県や中部運輸局などが主導して、愛知県の発酵食品文化を活用したインバウンド促進および受入環境整備などの活動が一斉にスタートした。
筆者が関与する日本観光振興協会でも、愛知発祥の「産業観光」の推進という観点から、「愛知・発酵食ツーリズム推進コンソーシアム」が行う事業を支援している。
発酵食文化は、これまで主に台湾・香港・タイなどアジア諸国にターゲットが置かれていた。しかし本事業では主にフランスやイタリア、スペインなど欧州諸国を対象としている点が特色である。既に主要蔵元に対するヒアリング調査や欧州人による発酵蔵モニターツアーが行われ、その課題とともに今後の戦略検討が進んでいる。
先月3月5日、名古屋で、モニターツアー参加者や蔵元関係者を交えたシンポジウム形式のワークショップが開催された。

ゲストスピーチをいただいたフランス人シルヴァン・ユエさんは、2012年第7回酒サムライの叙任者であり、フランスでの日本酒普及に力を注いでいる。当日は日本の発酵食文化の魅力と課題についてお話いただいた。発酵食文化が生まれる場の魅力、地理的・地形的・気候的特徴(テロワール)、これらを前提とした地理的表示(AOC)などの重要性などについて指摘した。
発酵食品は既に海外市場にもそれなりに出回っているが、こうした製品輸出が必ずしもインバウンドにつながっているとは言えない。この地域の発酵食文化の地理的特性や固有の文化を生かしたツーリズムの創造・発展が、我が国全体の「発酵食ツーリズム」のモデルとなれば嬉しい。
(観光未来プランナー 丁野 朗)