【精神性の高い旅~巡礼・あなただけの心の旅〈道〉100選】-その48-高千穂神社(宮崎県・高千穂町) 国生みの神話の故郷へ おおらかな日本の原点に立ち戻る
2025年4月5日(土) 配信
世界中を旅したら、どこの国でも建国や独立を記念する場所があり、そこは国民の誇りの源泉となっている。そして、どこの国でも建国や独立の記念日は国民挙げて祝うものだ。
ひるがえって、我が国は、建国記念の日を祝っている姿はまず見られない。いつの間にか、家に国旗を飾るという風習もなくなってしまった。
私が中学生のとき、社会科の時間に、天皇家も最初の方は実在しているかどうかわからないから、歴代の天皇の名前なんか覚えなくてもいいと言われた。そして、日本の神話はでたらめだと教わった。そんなことをわざわざ言わなくてもいいのになと思いながら、敢えてそういうことを生徒に教えるということが逆に違和感となり、もやもやとした印象を持ってここまで生きてきた。
そのようななか、国生みの神話の故郷である宮崎県・高千穂町では、建国記念の日にパレードを実施しているということを聞き、どのようなパレードを行っているのか興味がわいたので行くことにした。
建国記念の日に先立ち、2月10日に高千穂神社の後藤俊彦宮司から直接お話を伺える機会を得た。後藤宮司は元々神職の家庭ではなかったが、高千穂の出身で、福岡の大学を卒業して政治家の秘書をしていくなかで、神道への関心が生まれ、國學院大學に入り直し、神道の勉強をしたのち、故郷の高千穂に戻った。
しかし、後藤宮司が帰郷したとき、神社も荒れ果てていた。そして、高千穂の各部落に伝わっていた伝統的な神楽も、危険なものとしてGHQによって禁止されていた。しかし、一部の部落によって細々と伝わっていた神楽を後藤宮司が孤軍奮闘して少しずつ復活させてきた。後藤宮司は人々の心に国生みの神話を伝えていくことの重要性を地道に植え付けていったのである。

神楽は元々冬季に部落ごとに決められた日に夜通し演じられるものであり、神楽宿と呼ばれる民家や公民館に氏神様をお招きして三十三番の神楽を一晩かけて奉納するものである。だが、夜神楽の季節以外にも、観光客向けに高千穂神社境内の神楽殿で毎晩8時より1時間、三十三番の神楽の中から代表的な4番「手力雄の舞」「鈿女の舞」「戸取の舞」「御神体の舞」が演じられる。
なぜ夜神楽なのか、夜通し演じるのか、これはこの神楽を見るとその理由がよくわかる。子供にはちょっと見せるにははばかられるシーンがあるのだ。
神々も私たちと同じ。これが日本のおおらかさなのだ。しかし、キリスト教の禁欲の価値観が、明治開国時と戦後に大きく浸透した。そのような視点で見るとどうも猥雑に見えてしまうが、そのような視点を捨て、おおらかな人間賛歌と見れば、人を許し、受け入れる気持ちが生まれてくる。今の日本も含め世界中にまったくない考え方だ。これは変にインバウンドに開放されてほしくない。変な見方で見ないでほしい。日本人特有の一体関係という人間観の原点がここにあった。

建国記念の日のパレードは、観光客にアピールするというよりも、地元の人たちで祝っている感じであった。地元高千穂高校の生徒から、神様4人、女神様4人が選出され、彼らを中心に街を練り歩く。そのパレードには地元の保育園の園児たちも小さなコスチュームを着てかわいらしく歩いていた。幼児のころから神話の世界に親しみ、高校生では生徒代表がパレードで堂々と歩き、大人になったら各部落で神楽の演者になるといった世代を越えての伝承がうまく機能していた。白馬に乗った後藤宮司は地域住民からも尊敬されており、多くの住民から声を掛けられていた。
我が国の繁栄のロールモデルがここ高千穂に脈々と残っている。
■旅人・執筆 島川 崇
神奈川大学国際日本学部国際文化交流学科教授。2019年「精神性の高い観光研究部会」創設メンバーの1人。