持続可能な事業か否か、着地型観光の現状を語る、ツアー・ステーション 代表 加藤広明氏
6月1日に創立20周年を迎えたツアー・ステーション(加藤広明代表、愛知県丹羽郡)。同社は「着地型観光」事業に置いて愛知県下で唯一、中小企業地域資源活用促進法の認定を受け、また、その事業内容は「がんばる中小企業・小規模事業者300社」で表彰されている。しかし加藤氏は、この着地型観光が存続可能か危機感を覚えていると言う。今回は、「着地型観光」の問題点や課題、さらに文化を軸にクルーズや祭りなどを活用した観光について聞いた。
【平綿 裕一】
加藤氏は着地型観光について、「後発の日本版DMOが主流になりはじめ、脇に追いやられている向きがある」と危惧し、「着地型観光は持続可能な事業なのか否か、実践者が経営判断でどちらかに決めていい。けれど、暗に儲からない事業とし、無視しては着地型観光の発展や、地域活性化につなげていくことが難しくなる」と着地型観光の現状と課題を語る。
この現状に対し具体的な取り組みとして、3月の「国内活性化フォーラム in 鹿児島」と「第2回地旅博覧会」に先駆けて、鹿児島市内で「第2回着地型観光事例報告会」を開き、有識者らとディスカッションを行った。参加者は7人と少数だったが、大学教授や行政の担当者、民間事業者など多岐にわり、実りある議論の場になったという。加藤氏は「着地型観光が次の段階へと進むためには、問題点や課題、これからの方向性、事業体系など、全体を通じた交通整理の必要性を感じた」と振り返った。
今後は中部運輸局らと連携して、着地型観光の専門者会議を開いていき、着地型観光の中部版モデルと称する事例報告集の作成などを行う予定。また、これを観光庁に提出し、全国各地の地方運輸局に周知してもらう取り組みの実施を中部局に提言している。最終的にはフォーラムなどを開き、着地型観光の振興に寄与したい考えだ。
同社は創立以来20年間クルーズの発地型観光を継続し、同行日数は延べ1千日を超え、客数は延べ850人を超える取扱実績がある。
世界のクルーズ事情については、「アジアに中間層が増えてきたことなどを背景に、ここ1、2年で北東アジアに新たな市場を探し求めている」と分析する。この現状を鑑みて「外国客船の日本発着クルーズと、着地型観光とを融合させると面白いはず。寄港先で、地元に根付いた着地型を扱う旅行会社に任せれば、品質の高い、企画商品を提供できる。地元ならではの商品で、クルーズで来た人が、『ああ、日本の田舎っていいな』と言ってもらえれば成功だ」と着地型観光の可能性を探る。
また、政府が外国客船による訪日観光客の目標値を2020年までに500万人に定めたことについて触れ、ポイントとして(1)大型客船が寄港できるように港を整備(2)日本の海洋を周遊する広域観光ルートの形成――の2つを挙げた。「この2つを行えば500万人を達成できるはず。政府も外国客船を受け入れる環境整備のために、大型融資などを用意している」と話す。一方、「注意すべきは、誘客自体が目的となってしまうこと。訪日客がどれだけの経済効果をもたらすのか、この定量目標を定めるほうが優先すべきではないか」と持論を展開する。
インタビュー終盤で祭りが話題に挙がり、今年の11月に、祭りがユネスコの無形文化遺産保護条約登録候補として、全国33カ所が認定される予定で、このうち16カ所が中部管内にあると説明。しかし、祭りが無形文化財に登録されることに対して、「いざ登録された際に、『ユネスコ文化遺産!祭りに行こう!』などと商品が出てきて、ただレジャーの対象となっては本末転倒。つまり、祭りは信仰の対象であり、その精神性などが文化として重要であり、この前提がなくなると、祭りが形骸化してしまう」と不安をにじませる。
「日本の祭りというものを学ぶきっかけが必要。私も働きかけ、動き出しているが、なかなか大きいテーマなので、上手くいかない。ただ、今年は風が吹いている。祭りに関してフォーラムやシンポジウムを行い、知識を得て、我われ観光業界はこれを機になにをすべきかを、業界全体で考えなければいけない」と祭りの文化的側面を学ぶべきとの方向性を示した。