滞在型に対応 ― 「2泊3日」を想定した食の研究を
多くの旅館は現在も、1泊2食のスタイルが基本である。
最近は、訪日外国人客の増加やビジネス出張利用など、さまざまなニーズに対応するために「素泊まりプラン」や、「1泊朝食プラン」なども比較的多く目にするようになった。都市部や、大規模な温泉地に立地する宿と、山の奥の1軒宿や、寂れた温泉街にある宿では、立地条件も異なり、一概には言えないが、滞在型を考えるうえで、旅行者の食事をどうするかを、まず考えなければならない。
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「1泊2食」が主流のため、朝10時を過ぎると、旅館や温泉街は閑散とする。昼間に温泉街で美味しいランチでも食べようと思っても、そう簡単には見つからない。多くの温泉街は、夕方4時から翌朝10時までの旅行者の滞在しか想定されていないため、温泉街から少し離れたとこにあるドライブインや、道の駅などに行かなければならない。滞在客にとっては、とてもさびしい状況である。
“滞在型”への移行はさまざまなところで議論されているが、いきなり長期滞在プランは難しい。しかし、条件がそろえば、可能な宿から「2泊3日」プランを、「1泊2食」と並ぶ基本プランとして売り出すのはどうだろうか。少し時間に余裕があれば、「2泊くらいは、温泉に浸かって、ゆったりとしたいなぁ」と思うのが人情だ。
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2泊となれば、問題となるのが、1泊した後の昼間の過ごし方だ。オプショナルツアーに参加して近隣の観光地を巡るというのも一つの手であるが、旅館内、もっといえば、温泉地内にゆったりとできる空間や食事ができる一定レベルのレストランがあると、ベストである。
旅館で夕食と朝食をとった後の昼食は、軽めの方がいい。例えば、山で採れたキノコのピザを庭の片隅で焼き、冷えた白葡萄酒や地ビール、紅茶などを提供するのもいいし、前夜の夕食で余った牛肉や、魚介類を混ぜた賄い風のカレーや、サンドイッチなどを用意するのもいい。
宿泊客がくつろぐ空間も必要になる。自然豊かな環境であれば、テラスや東屋で、軽食やランチを食べてもらう。読書や、うたたねができる空間もほしい。そのように、少しずつでも滞在できる環境を整えていけば、やがて食材のロスの減少や、夕食の分量などの見直しにもつながっていくはずだ。
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日本の西洋料理界を牽引してきた「ひらまつ」が今年7月、三重県・賢島に直営ホテルをオープンし、予約も順調という。10月には静岡県・熱海に「西洋旅館」を開業する。フランスなどで呼ばれる“オーベルジュ”とも異なる、日本旅館のおもてなしを加える。“スモールラグジュアリー”をコンセプトとし、富裕層に「高級な食材を使った美味しい料理と、豊かな滞在時間と空間」を堪能してもらおうとしている。新しいカテゴリーの旅館として支持を得ると思う。
外国人旅行者の増加により、受入側の意識やスタイルも急速に変化している。一方、日本人の旅のスタイルやニーズも、目立たないが時代とともに少しずつ変化している。
従来型の画一的な旅館料理には、おそらくお客は飽きている。「2泊3日滞在してもらう」ことを想定した受入れのオペレーションや、料理のバリエーションの研究を急ぐべきである。新たな宿泊モデルが迫りつつある。
(編集長・増田 剛)