訪日客2000万人突破 ― 外国人旅行者を「穴埋め」と考える状況
2016年の訪日外国人客数が10月30日に、累計で2千万人を超えた。1千万人を達成したのが13年のことで、わずか3年で2倍を大きく超えることになる。このままのペースで推移すると、今年は2400万人前後までいきそうだ。今後は、4年後の20年に4千万人という目標に向けて、国を挙げて突き進んでいくことになる。
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一方、11月8日に米国大統領選挙の投票、開票が行われ、共和党のドナルド・トランプ氏が劣勢を覆し、大統領就任を確実にした。今年6月に英国で行われた国民投票でEU離脱を決めたことに続く、世界的に衝撃を与える選択となった。どちらも僅差ではあるが、グローバリズムから、内向きのナショナリズムへの転換を映し出した。とくに欧米では移民の受入れや自由貿易などを推し進める一方で、さまざまな軋轢も生まれ、EU離脱や、トランプ氏勝利といった現象を生み出した。
民主党のヒラリー・クリントン氏ではなく、トランプ氏が米国大統領に就任することで、世界の秩序や枠組みは、大きく変化していくだろう。
日米同盟を基軸とした安全保障のあり方も、大きく変わる可能性がある。12月に山口県を訪れるロシアのプーチン大統領との北方領土交渉にも少なからず影響を与える。尖閣問題、あるいは朝鮮半島の不安定化も、今回の米国大統領選挙の影響を強く受けることは間違いない。
今はインバウンド拡大で沸く日本であるが、移民問題についても今からしっかりと議論し、対策を考えなければ、いずれ国民を二分する大問題になっていくことが予想される。
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訪日外国人客が2千万人を突破した日本だが、一時期大ブームとなった“爆買い”は落ち着きを見せ始めている。また、東京や大阪などで異常なほど高止まりをしていたホテルの客室稼働率も僅かだが下降傾向にある。全日本シティホテル連盟が発表している客室利用率調査では、8月の東京は前年同月比4・7ポイント減の86・4%、大阪は3・6ポイント減の89・7%と、ともに高水準ではあるが90%台を割っている。
都心部では百貨店の免税店売り場を拡張し、今もビジネスホテルの建設ラッシュが続いている。だが、ブームを追いかけている最中に、社会の動きが急展開するのが世の習いだ。日本のバブル経済の崩壊を目の当たりにしてきた経験から、異常な沸き上がり方をしている産業や現象を見るにつけ、「こんなお祭り騒ぎはいつまでも続くはずがない」という感覚が、哀しくも、染み付いている。
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懸案の民泊問題も、埋めることができないのに、建物を建て続ける建設業や不動産業、そして不動産賃貸業者が「穴埋め」的に、訪日外国人でお金儲けをしようという構図である。けれど、それは人口減少に加え、所得が増えないことや、休暇制度がまったく思うように進まないために行き詰った観光業界と同じである。縮小しつつある旅行市場の「穴埋め」として外国人観光客を受入れている状況と、なんら変わりない。もちろん、多くの外国人観光客が日本を訪れてくれるのはありがたいことだ。しかし、それら外国人観光客を、国内問題の行き詰まりの「穴埋め」的に考えて、国が観光政策を進めているのなら、民泊問題でもそうだが、やがて大きな軋轢や新たな問題を生むだろう。
(編集長・増田 剛)