2017年の観光業界 ― ターゲットになりづらかった層も…
2016年も押し詰まって、ドイツ・ベルリンのクリスマス市に大型トラックが突っ込み、12人が死亡するテロ事件が発生した。また、ロシアの駐トルコ大使も警察官の男に銃で撃たれ、死亡した。国際的に広がるテロ事件の連鎖は、この先も続いていくのだろうと思うと、なんだか暗い気持ちになる。
17年の観光業界はどのような年になるか。やはり、不安定な国際情勢が大きな影響を与えることになるだろう。
年明け早々1月20日にトランプ氏が米国大統領に就任する。オバマ現大統領は就任して間もなく、ノーベル平和賞を受賞した。オバマ大統領の8年間は大きな戦争はなかった。しかし、その間、IS(イスラム国)の台頭、北朝鮮の頻繁な核実験・ミサイル発射実験、さらには中国の南沙諸島での岩礁埋め立てによる周辺地域の軋轢など、世界各地で危機的な状況が生まれている。トランプ大統領が今後、これら問題にどう対応するかによって、国際的な枠組みがまた大きく変動する。世界各国が綱渡りのような状況で進むなか、日本の外交政策も慎重かつ、大胆な行動が求められる。
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このような緊張感漂う国際情勢のなか、安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領が領土問題や経済協力について会談した。
舞台は、山口県の長門湯本温泉の老舗旅館「大谷山荘」。地方の温泉旅館で国の将来を左右する首脳会談が行われたことに、多くの旅館関係者も驚き、誇りを感じたのではないか。
私たちが旅先を訪れるとき、そこで行われた劇的な事件に想いを馳せる。歴史的な舞台は、首都に集中する。日本であれば、京都が歴史の主な舞台であり、江戸幕府開府ごろから東京も表舞台となり始めた。しかし、東京を離れ、日本の奥深い文化を育む地方の温泉旅館で日ロ首脳会談が行われた意義は大きい。16年にはG7伊勢志摩サミットも開催されており、東京一極集中ではなく、地方の煌めきを世界に発信できる機会が増えていることも感じられる。
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16年の訪日外国人数が2400万人前後になると予想されている。17年は、順調にいけば3千万人近くまで伸びるだろう。一方、海外旅行者数は1―10月までの累計(推計値)は前年同期比4・8%増の1418万人と、伸びてはいるがインバウンドの飛躍的な伸び率と比べると元気なく感じる。最近話題のVR(ヴァーチャルリアリティ=仮想現実)の技術がもっと進めば、いずれ現実に旅行しなくても、それなりのリアリティを感じて旅することができるようになるのだろうか。寂しい感じもするが、仮想現実を体験することも、一つの体験になる時代が訪れると言った方が正しいだろう。旅の定義も変わるのか。
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いずれにせよ、旅に関しては2極化がより一層進むのではないかと思う。旅行をしない人はますますしなくなるし、旅行する人は何度もする。また、温泉旅館についても、一生行かないという人も今後増えるだろう。その意味でも、旅館は従来の顧客層とはまるで異なる層を想定しておいた方がいい。旅行ニーズの変化を敏感に捉え、価値観の転換が必要だ。外国人旅行者やビジネス出張の1人客、旅館のおもてなしを必要ないと感じる若年層など、17年は、ターゲットになりづらかった人たちが“新たな顧客”となる、大きな変化の始まりの年かもしれない。
(編集長・増田 剛)