宿泊約款の更新を、トラブル回避へアドバイス、三浦雅生弁護士
全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会の女性経営者の会(JKK、岡本尚子会長)が1月11日に開いた定例会議で、弁護士の三浦雅生氏が「クレーマー対策としての宿泊約款の活用」について講演した(既報)。三浦氏は「旅館業法などに個別規制する条文がない」ことを挙げ、「宿泊約款は自由に更新できる」と主張。自身が作成した「モデル宿泊約款改正試案」をもとに、「価格誤表示」や「クレーマー対策」など身近に起こりうるトラブルへの対応を講義した。
【後藤 文昭】
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価格誤表示は、理由があれば無効
インターネット上で「価格の誤表示」によるトラブルがたびたび話題になる。民法上では、販売者が価格を誤って表示した場合原則契約は無効になると定めている。また、消費者が価格を書き間違えて提示していると知りながら商品を購入したり、契約を結んだりした場合も無効にできる。しかし商売に携る人間が一番重要な価格を間違うことはありえないとの判断から、「事業者に故意や重大な過失があった」としてほとんどのケースで契約を有効にされる。これを踏まえ三浦氏は「消費者が事情を知っていたか(悪意)は立証困難」だとし、その負担を軽減するための条文作成を提案。「当該料金が、その前後の期日の宿泊料金より著しく低廉な場合は、特別、限定、キャンペーンなどの理由表示や案内がない場合は(宿泊契約を)無効とする」と記載することでトラブルを回避できるとした。
正当な理由があれば宿泊は拒める
「クレーマー」の存在が問題になっているが、現在の旅館業法では特別な場合を除いては「宿泊を拒めない」とされている。三浦氏は各都道府県が定める「旅館業法施行条例」には宿泊拒否の事由が明記されているため、「正当な理由」があれば違法にはならないことを紹介。宿泊拒否事由を新設し、合理的な理由のない苦情、要求を申し立てる宿泊客に対しては「平穏な秩序を乱す恐れが認められる」とし、「宿泊契約の締結を拒否できるようにするべき」と提案した。
寄託物は範囲を限定して預かる
旅館やホテルのクロークやロビーに荷物を預ける人は多い。その際の紛失や破損などのトラブル対策として約款に「不可抗力である場合を除き、当ホテル(館)が損害を賠償します」という条文が記載されている。しかし三浦氏はこの条文にある「不可抗力」が天災などの場合のみを指す言葉で従業員の過失などは含まれないと指摘し、「寄託物の範囲を限定するべき」と警告。想定外の事態に備え「○○万円以上の現金または時価○○万円以上の物品は預かれない」と定めておくように勧めた。
約款翻訳は実施しなくても問題ない
約款を有効にするためには、ホームページ上への掲載と、フロント前の掲示が必要用件になる。インバウンド対策で外国語のページを作成している会員からの、「約款も翻訳するべきか」との質問に対し、三浦氏は「最高裁判所の判例で約款が存在すれば問題ないと示された」とし「必要ない」と回答した。