新たな旅のカタチ誕生、温泉+地域の魅力で活性化(ONSEN・ガストロノミーツーリズム)
その土地ならではの食を歩きながら楽しみ、歴史や文化を知る旅を、ガストロノミーツーリズムという。昨年、このツーリズムに温泉を組み合わせた新たな試みが日本で誕生し、4月から活動を本格化させた。「ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構」(涌井史郎会長)が進めるこの取り組みは、温泉地の魅力を国内外に発信し、活性化させるのが目的。涌井会長や佐藤恵企画部長に聞いた同推進機構の事業内容を中心に、このツーリズムを紹介する。
【後藤 文昭】
ONSEN・ガストロノミーツーリズムは、日本が世界に誇る温泉を巡りながら、周辺の土地の風土性豊かな食材と地酒を、景観や自然とともに楽しむもの。温泉地の価値を滞在・体験型の観光拠点へ展開し、地域交流をはかることが目的だ。地域振興とも密接にかかわり、日本にこの新たな運動が根付けば、温泉地の活性化にもつなげられるという。
推進するのは、「ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構」。ANA総合研究所(ANA総研)とぐるなびが設立時に会員となり、日本観光振興協会の特別協力のもと昨年立ち上げた社団法人だ。5月現在、サントリー酒類や、プリンスホテル、大和リースも会員となり、機構の活動を支援している。5月15日には東京都内で初の総会を開き、会員間で意見交換を行うなど、取り組みを加速させている。同機構は、コース認定や情報発信、自治体の支援などの役割を担い、5年以内に100自治体の会員化を目指す。また、個人会員からなるONSEN騎士団(シュバリエ)の結成などを通して、人材の育成にも取り組んでいく。自治体からは、5月現在で温泉地を有する9カ所が会員として同機構に参加している。
会員自治体は、年1回地域と連携してイベントを主催し、機構とともに全国から参加者を募る。運営には地域住民も協力し、参加者との交流を通してイベントを盛り上げている。参加者がSNS(交流サイト)にウォーキング中の体験や感動を投稿することで、温泉地や地域の魅力が世界中に広がることも期待されている。
昨年11月に初めて行った大分県別府市のイベントには、約300人が参加。長野恭紘別府市長は「リピーターを増やす、満足度を上げるなどの面でこの取り組みは有効」と語り、「地元の人が食べているものを食べたい、同じ温泉に浸かりたいなど、生活と密接した部分まで入ってくるのが最近の観光の傾向。次回はまち中を歩き、本当の別府の良さを実感していただけるコースを用意する」と意気込んだ。
その後も、熊本県阿蘇市・内牧温泉や天草市・下田温泉、秋田県・大館温泉郷など続々とイベントが行われ、7月1日には新潟県新潟市・岩室温泉、15日には山口県長門市・俵山温泉での開催も決定。今後の予定などは、機構のホームページ(onsen-gastronomy.com/)で紹介される。
温泉行政を所管する環境省の山本公一大臣は、機構の総会で「(機構の取り組みは)温泉地のにぎわいの創出を目指す環境省の方向性に合致しており、同省としても引き続き協力していく」とし、「温泉の魅力を外国人観光客にもわかってもらいたい」と意見を述べた。
観光庁の田村明比古長官は5月の会見で、「旅館の食事が宿泊客に選択肢を与えられていない」と現状の課題を指摘。この取り組みに対し、「温泉地やその周辺地域がその土地の美味しい食材を使った料理を提供することで、国内外の旅行者の宿泊需要を喚起できると期待している」と語った。
時代は「集」から 「個」の時代に
涌井会長は、旅行形態などが「集」から「個」に移るなか、観光産業は一部を除いて「集」を対象にするビジネスモデルのままであることを指摘。食事などの場面で多くの選択肢を用意する「個」を対象にしたビジネスモデルに転換しなければ、多くの温泉地がますます苦しい立場に置かれることになると、改めて警鐘を鳴らした。
同氏は、「個」を対象にするビジネスモデルに転換し、成功している場所として「兵庫県・城崎温泉」を挙げる。同地は、駅を玄関、街並みを廊下、個々の旅館を寝室と位置付け、街ぐるみで1つの旅館を形成。そのため、外食や外湯が当たり前になっており、国内外から多くの観光客を集客することができているという。