同じ客室なのに… ― 直予約の方が高いホテル 悲しい現実
この夏、オートバイで1人旅をしてきた。旅の目的は、念願だった北海道一周だ。
茨城県の大洗港からフェリーで北海道の苫小牧港へと向かい、海岸線に沿って一般道を時計回りで走った。
北海道をオートバイで走るのは初めてだったので、1日にどのくらい走れるか想像できなかった。また、天候によっても走行距離が変わってくる。オートバイの故障なども考慮に入れ、宿は一切予約しなかった。格好よく言えば、行き当たりばったりの旅だ。
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宿を決めていなかったので、午後になると、夕暮れまでに辿り着けそうな町を「宿泊地」と決めた。道の途中でオートバイから降りて、スマートフォンで調べて、宿に直接電話した。
現在のIT(情報技術)社会では、当然インターネット予約の方がラクだし、料金も安いことは薄々知っていた。だが、あいにく私のスマホは初期設定の失敗から、メール機能が使えない状態になっていた。宿泊予約サイトのほとんどは、予約時にメールアドレスの記入が必要だが、私にはそれができない。仕方なく、「あの~、今日ですが、シングルルームが空いていますか?」と、直接宿に予約の電話を入れるしかなかった。
しかし、8月の北海道はそう甘くなかった。当日に空いている宿なんてほとんどなかった。
「ごめんなさいね。満室なので」と立て続けに断られた。人気ホテルや旅館が満室でも、小さな民宿に空室がある場合もあるが、この時期の北海道には全国から大挙してツーリング・ライダーがあらゆる宿に予約を入れており、何度も絶望的な気分になった。このため、函館や小樽など超人気観光地はできるだけ避けて、知名度が比較的高くない小さな町で宿を探すと、空室を見つけることができた。
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けれど、毎日、毎日、その日の宿が予約できるか分らない状況でオートバイを走らせるのも不安であり、また、断られながらの宿の予約自体もだんだん煩わしくなってきた。旅の中盤からは1日の走行距離も大体把握できてきたので、天気予報を小まめにチェックしながら、当日の朝には宿の予約を済ませることを日課にした。
ある朝、私は大手宿泊予約サイトを見ながら、有名ビジネスホテルチェーンの1軒に「シングルルーム」の空室を見つけたので、ノートにメモして、そのホテルに直接電話してみた。予約係の男性からは「シングルルームは空いています」と、予想通りの返答があった。「では予約をお願いしたいのですが、ちなみに料金はおいくらですか?」と聞くと、大手宿泊予約サイトよりも2千円ほど高い料金を提示された。さすがに同じ部屋に2千円も多く支払う気はなかったので、「宿泊サイトには○○円と出ていましたけど」と言ったが、システム上、直接ホテルに申し込むと2千円ほど高くなってしまうという一点張りで、平行線を辿った。
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私が見た宿泊予約サイトには、空室が6室もあったのに、少し悲しくなってしまった。「このホテルも目の前の客より、多くの手数料を取る宿泊予約サイトを経由して予約した客に、より大きなメリットを与えるのか……」と残念な気分になった。それでも愚痴も言わず、「じゃあ、他の宿を探します」と電話を切った。私はまた一から他の宿を探し始めなければならなくなった。
(編集長・増田 剛)