滞在型の観光地へ、地域主体で学生も参加(群馬県・長野原)
八ッ場ダムとジオパーク核に
群馬県・長野原町(萩原睦男町長)で今夏、滞在型観光地の魅力創出に向けた取り組みが始まった。地域住民が主体となり、同町と協定を結ぶ跡見学園女子大学の学生も参加。インフラツーリズムとジオツーリズムで日本一の観光地になることを目標にダムやジオパーク、温泉地などの地域の観光資源を磨きあげ、魅力を再編集する。長期滞在の仕掛けづくりや、観光拠点の整備なども進められる。7月16日に行われた決起集会では、関係者らが事業計画を説明した。
【後藤 文昭】
萩原町長は同町の山村開発センターで開かれた決起集会でプロジェクトの名称を、「観光を学ぶ女子大生が種を蒔き、町民が水をやる大作戦」と命名。「これからは、我われが観光客を虜にしていかなければならない」と訴えた。
跡見学園女子大学観光コミュニティ学部の篠原靖准教授は、町が進める「長野原町まち・ひと・しごと創生総合戦略」で分析している人口動態などのデータを引用し、「プロジェクトは、長野原町の生き残り戦略の基盤づくり」と断言した。そのうえでダム完成後の長野原町の観光戦略は、「八ッ場ダム」と「浅間山北麓ジオパーク」を活かし、インフラツーリズムとジオツーリズムの2つで日本一の観光地を目指すことと提言した。
国土交通省関東地方整備局八ッ場ダム工事事務所は2017年春から、工事現場を見学する、インフラツアー「やんばツアーズ」をスタート。案内役に地元吾妻郡在住の女性からなる「やんばコンシェルジュ」を起用し、ダムの歴史と役割を分かりやすく解説している。個人向けツアーでは、夏のホタル観賞、秋の吾妻峡の紅葉、冬は樹氷と、季節ごとの見どころもコースに組み込む。
やんばツアーズの今後の課題は受入体制の整備。予約なしでダム工事を見学できる展望台「やんば見放台」には、今年5―6月だけで2万人以上が訪れている。やんばツアーズ自体も、現在10月までツアーの予約が埋まるほどの人気を集め、今年1年間で6万人の集客を見込んでいる。しかしコンシェルジュ不足が予想されるなど、受入体制の整備には改善の余地が残る。
一方で、ジオパークは観光客が魅力を感じられる状態まで整備が進んでおらず、両者の有機的な連携もはかれていない。また、町内にある川原湯温泉などと連携した地域経済循環の仕組みも構築しなければならない。篠原准教授は、「長野原町は今、お金が落ちる仕組みが作れるか。その瀬戸際にきている」と訴えた。
未来に向けて、5つのプログラム始動
大学生と地元住民が取り組むのは(1)川原湯温泉ブランド化・リピーター拡大研究(2)やんばツアーズ・女子大生コンシェルジュ&ジオパーク連携商品の開発(3)酒蔵・地酒ツーリズム(4)国交省道路局主催全国大学道の駅インターンシップ(道の駅八ッ場ふるさと館・観光コンシェルジュ)(5)長野原町役場インターンシップ生派遣――の5つ。8―9月上旬に学生が集中合宿を行い、プロジェクトごとに関係者と観光資源の磨き上げや整備を進める。
川原湯温泉とダムの連携では、ダムの完成後は、やんばツアーズを組み込んだ宿泊商品造成や、夜間・早朝ツアー開発など、宿泊需要拡大への仕掛けを組み立てていく。
長野原町の拠点として整備を進める道の駅八ッ場ふるさと館(篠原茂社長)は、オリジナル商品の開発や売り場の改革などを進める。篠原駅長は「地産物の発掘や発信は大きな課題。今回の連携で、地域の魅力をさらに発信していく」と宣言した。
町内にある観光土産物施設の浅間酒造観光センター(櫻井武社長)は、滞在拠点として酒蔵ツアーの造成を行うほか、若者、女性客の誘致にも取り組む。櫻井社長は「長野原町でしかできない酒蔵ツーリズムを行い、地域全体で着地型観光地の形成に取り組んでいきたい」と語った。
また、夏の間に住民向けやんばツアーズを催行し、観光面での取り組みを周知。浅間山北麓ジオパークを関連させたガイドシナリオの作成や、今後予想されるコンシェルジュ不足への対応協議など、やんばツアーズ全体の底上げもはかる。
決起集会を終えて跡見学園女子大学の学生は「私たちが関わって、(長野原町や八ッ場ダムを)世の中に出すことで、外から注目してもらえるきっかけにしたい」と挑戦への意気込みを語った。
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現地視察会を実施
7月16日に行われた決起集会に先立ち、現地視察会が行われた。
最初に「なるほど! やんば資料館」で、やんばコンシェルジュがダム計画の歴史などを解説。説明によると、ダム完成によって湖岸延長約8キロのダム湖が完成し、低い土地を流れる吾妻川や、川に並行して走るJR吾妻線と国道145号線、長野原町の5地区が水没する。水没地区の住民の生活再建は、集落をそのまま高台に造成した土地に移す「現地再建方式」を採用し、地域コミュニティや伝統的な祭りなどを守るという。
次に旧川原温泉地区へ移動し、当時の写真と今の風景を重ね合わせながら、当時の温泉街の姿を学んだあと、移転した現在の川原湯温泉を視察。地元の現状や歴史、土産が無いなどの課題を関係者から教わった。
そして、ダム工事の現場へ。完成時の高さと同じ場所から、ダム工事のようすを見学し、ダム建設地の全体像や、ダムの大きさを実感。夏の間やんばコンシェルジュを務める跡見学園女子大学の生徒が、実演を行った。
その後、ダム下流に位置する吾妻峡に移動し、地形的特色や成り立ちを学習。関係者は同地が、ダムをつくる好条件である「硬い岩盤」と「狭く深い谷」が備わっていたため、建設地に選ばれたのではないかと自身の見解を述べた。
吾妻峡の先には、団体見学ツアーで訪れることができる見学スポットがある。最初に見学したポイントよりも低い位置にあり、こちらからはダム工事の進捗やダムの細部を間近に見学できる。