【谷中散策ツアー同行】訪日客へ着地型提供、地域ならではの体験を
2017年5月、訪日外国人旅行者(インバウンド)数は過去最速で1千万人を突破した。拡大が続くインバウンド市場ではどのようなビジネスが展開されているのか。着地型観光サービスを提供する、ベンチャー旅行会社、トリップデザイナー(坂元壮代表、東京都台東区)の「谷中散策ツアー」に同行。ツアー内容や造成理念といった、受入方法の具体例を紹介する。ツアー参加者は米国からの旅行者4人。通訳案内士である野澤雅春氏がガイドを務め、谷中と根津(ともに東京都台東区)を案内してくれた。
【謝 谷楓】
■コンテンツ重視のベンチャー旅行会社
「手配をしているという意識はない」と力を込めるトリップデザイナーの坂元代表。インバウンドビジネス拡大に注力するやまとごころ(村山慶輔代表)主催のセミナーへの参加を重ね、2016年に同社を設立した。業務内容は、訪日旅行者向けの着地型観光サービス。地域を深く掘り下げるオプショナルツアーの造成と販売、ガイドを担う。約60人のガイドが全国でサービスを展開する。
重視しているのは、地域ならではの体験と、日本特有の文化や歴史を感じられるコンテンツ。造成時には、海外で発行されるガイドブックを参考にするほか、ツアー参加者やSNS(交流サイト)での口コミも重視する。「外国人旅行者の気に入るポイントはどこかを意識するなど、工夫を欠かさないよう心がけている」と、坂元代表は強調する。販売は、自社Webサイト「OMAKASE」と、海外旅行代理店を通じて行う。
■ニーズに合ったコンテンツを用意
同行した「谷中散策ツアー」の価格は約9千円。代理店経由でも価格はほとんど変わらない。午前9時に待ち合わせ場所・JR日暮里駅に向かうと、ガイドの野澤氏が笑顔で出迎えてくれた。英国駐在経歴を持つ同氏は、流麗なブリティッシュイングリッシュで、既着の参加者らと談話しているようす。業務時、大切にしていることはという質問に対し、「ともすると、一方的なレクチャーになりがち。参加者の性質を理解したうえで、質問のしやすい環境づくりが何よりも大切だ」と答える野澤氏。参加者の性格やニーズの把握も、談話を通じ行う。
今回の参加者の特徴は、歴史と文化に関心が高い点。当日は、「谷中銀座」といった観光スポットと比べ、「谷中霊園」や「天王寺」「根津神社」といった日本の伝統・慣習に触れる機会の多いスポットでの滞在時間が長かった。野澤氏は、同じツアーコースを辿るにしても、参加者の趣味嗜好を把握したうえで、時間管理をすることが大切だと教えてくれた。「卒塔婆」や「神仏習合」「天皇退位」「鎖国」など、比較的ディープな話題を取り上げていたのが印象的。参加者の真剣な表情を見ると、一人ひとりのニーズを満たすガイドに徹していることが良く分かる。
■受入体制の整備担う
来訪先の国・地域によって、興味関心はさまざま。同社では研修会を開き、ニーズを受けとめるガイドテクニックのさらなる向上を目指す。
20年の訪日客4千万人を目指し、海外での周知活動が加速するなか、国内での受入体制整備も疎かにできない。観光ガイドを担う同社は、具体的な受け皿のとして機能しており、存在感が高まりそうだ。