「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(81)雨の日も晴れやかに、運転手が手に持つ傘に
バス旅行に参加した雨の日、バスに戻るお客様に傘を差して迎える運転手の姿が、雨で気分がさえない気持ちを、一瞬で晴れやかな気持ちにさせてくれました。
乗車口で「お帰りなさい」と迎える笑顔も、雨の中を難しい顔をして歩いていたお客様の表情を笑顔に替えていきます。
最も大きな笑顔の要因は、運転手が手に持つ傘にありました。
雨の日のバスで最も嫌な瞬間は、傘をたたみ乗り込む時です。乗車前に濡れないように気をつけてはいても、やはり濡れてしまいます。
その運転手は笑顔で傘をお客様に差しかけていました。しかもその傘がゴルフのキャディーが選手に差しかけるために持つ、大きな傘だったのです。その傘を見て、お客様が笑顔で話し掛けながらバスに乗り込んでいくのです。
このバス会社では、ツアー中にお客様が利用できる傘も用意しています。これもうれしいサービスです。ふつうは濡れた傘を自分の席まで持って行くと、車内は水浸しになります。
雨だけでも憂鬱なのに、車内まで濡れてしまった状態になれば、ますます気分は落ち込みます。
入口で傘を預かる箱を用意している会社もありますが、多くの場合は自分の席まで持って行きます。あとから来た人が、自分の傘の中に先を入れてしまい、中まで濡れたり穴を空けられる、ということもあったから、とうかがいました。
しかし、貸し出す傘であればなんの心配もなく箱に入れて席に戻ることができます。おかげで車内も快適でした。
運転手の話では、もう1つこの傘のメリットがあります。お客様みんなが同じ傘を持っているので、自分のお客様がどこにいるのかすぐに分かるということでした。
ある休憩地では、こんなことがありました。雨が止み、何人かのお客様が傘を持たずに休憩施設に入り、再びバスに戻ろうとしたとき、激しい雨が降りだしたのです。
傘を持たないお客様が、走ってバスに戻ろうとするのを見つけた運転手が、そのお客様に「そこで待っていて下さい」という合図を送り、バスから飛び出すように、数本傘を持って走って行きました。
365日晴れるということはありません。私たち仕事をする者には、たまたま今日は雨という1日かもしれませんが、ツアーのお客様にとっては「何もこんな日が雨にならなくても」という悲しい、悔しい気持ちになると思います。
その1日を振り返って、雨だけど、良い1日だったと思ってもらえるように、全力でお客様を守ることこそが、おもてなしの想いなのです。
コラムニスト紹介
西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。