「味のある街」「つばさかりん」――紋蔵庵(埼玉県川越市)
天明や天保の大飢饉で庶民を救ったのは、さつまいもだといわれている。それらは川越から江戸へ新河岸川を行き交う船によって運ばれた。陸路より短時間で運べるため新鮮さが保たれると評判だったという。庶民の間で「焼きいも」と親しまれ普及していったのも川越のさつまいもが多かったそうだ。今でも芋を使った和菓子や芋せんべいや芋そばなど人気の品々がたくさんある。
暑いのが苦手な私だが、涼しい秋になった。街歩きをするのには絶好の季節だ。気軽に街歩きを楽しめる川越に出掛けることにした。かつての城下町で蔵造りの町並みや史跡が多く残り、小江戸と呼ばれ年中多くの人々が訪ねる大観光地の一つだ。1893(明治26)年、市街をなめ尽くした大火災をきっかけに火に強い土蔵造りの店が建ち並び、川越は江戸の風情を残すたたずまいとなった。
本店はその蔵の町並みから車で10―15分ほどの古谷にある。有名な時の鐘からだと歩いて15分の喜多院の門前にも支店がある。最初にこの店を訪ねたときに「午前中にお店に来ていただければ、お買い求めいただけると思います。そうでなければご予約なさった方が確実ですよ」とお店の方はおっしゃる。手に入れられなかったのだ。今日は本店に予約を入れておいた。夕方に取りに行ったときは、やはりすでに「好評につき売り切れました」と張り紙がしてあった。朝の連ドラ「つばさ」の舞台が川越の「甘玉堂(架空)」という和菓子屋が設定ということもあって発売当初からの人気は続いている。その名も「つばさかりん」。《川越の味、さつまいもをあんに仕あげ、じっくり煮詰めた「こがし蜜」を生地に練り込み、昔懐かしい味わいのかりん糖風に香ばしく油で揚げました。黒糖の風味豊かな素朴な味をお楽しみください》とお菓子のしおりに書いてある。外見はかりん糖の色をしたやや細長い饅頭だ。香りは、まさにかりん糖。揚げたてはさっくりしっとり。日が経つに連れしっとり感が増してくるのでオーブントースターで3―4分温めると作り立ての美味しさが味わえる。
(トラベルキャスター 津田令子)
コラムニスト紹介
トラベルキャスター 津田令子氏
社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。