「津田令子のにっぽん風土記(30)」アートでより幅広い人が訪れるまちに ~ 徳島県・美波編 ~
2017年10月14日(土)配信
徳島県・美波町は徳島県の南東部にあり、大浜海岸へのアカウミガメの上陸が有名で、マリンスポーツも盛んなまちだ。四国八十八カ所第23番霊場の薬王寺があり、お遍路参りをする人も訪れる。
この美波町で「お宿日和佐」を営むのが、フランス出身の彫刻家のボーデ・ジャン・フィリップさんと優さんの夫婦だ。若いころにヨットで立ち寄ったことをきっかけに美波町に住み、その後は仕事の関係で神戸市などに転居したが、住みたい古民家を美波町で見つけ2011年に購入した。 大正時代の建物だが、改修するには想像以上の手間がかかった。2人は家を存続させる手段として宿を営むことを考えた。「薬王寺に近いので、お遍路さんは来てくれると思いました」とフィリップさんは話す。
15年に開業。室内の家具や調度品などは古いものもどこかおしゃれだ。素泊まりの宿だが、清潔でふかふかのふとんや、セルフサービスの食パンやコーヒー、センスのある食器などにもおもてなしの心を感じられる。水回りは最新式のものにリフォームされ、快適だ。フィリップさんが左官職人の使う鏝で壁に描いた鏝絵や、国際的なファッションデザイナーである娘さんが描いた襖絵もある。
毎年開かれる「ひわさうみがめトライアスロン」の参加者も泊まりに来て、来年の予約をして帰っていく。また近年、美波町では企業の「サテライトオフィス」の誘致を進めており、IT企業や地域活性化を扱う企業、デザイン事務所などのオフィスができた。これらの会社を訪れる人や、視察に来る人が宿泊することも増えている。また、企業の若手社員が視察者に宿を紹介しに来ることをきっかけに仲良くなり、地域の若い世代とも交流を深めている。
2人はフィリップさんの故郷であるフランスとの2拠点居住をしており、渡仏中は息子夫婦が宿を切り盛りしている。2人は宿の近くでさらに2棟の古民家を購入し、改修を進めている。このうち1棟は、フィリップさんの彫刻を生かして鏝絵を教えるなど、アートの教室にしたいと考えている。「アートをきっかけに、美波町に訪れるきっかけを作りたい」とフィリップさんは話す。
美波町全体でも、今年5月に桜町商店街で「門前町アート展」が開かれたり、壁にだまし絵が描かれたフォトスポットができたりと、アートでまちを盛り上げる機運が高まり始めている。さらに多様な人の行き交う、活気あふれるまちになっていきそうだ。
コラムニスト紹介
津田 令子 氏
社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。