「トラベルスクエア」大学連携型CCRC
2017年10月22日(日) 配信
書物に関する研究、エッセイなどで著名な紀田順一郎さんは、大学時代のサークルの大先輩で、もちろん、本の収集家としても著名なお方。
それで、愛書家だったら必ず遭遇するのが「最後、それをどうする」の深刻な問題だ。紀田さんも80歳を超え、大胆な処分に踏み切った。その決意のプロセスを語ったのが「蔵書一代―なぜ、蔵書は増え、そして散逸するのか」という(僕には)戦慄的な本が出た。
まとめてしまえば、蔵書は「蔵」している人の個性があるから意味があるので、その個性がなくなれば、ただのゴミに近いものになってしまう。
悲しい話だが、それが現実。だから、できればその蔵書を何らかの形で引き受けて、社会の「共有財産」として保存してくれる村とか町はないものかと夢想する。
話はちょっと変わるけれど、今年、経営者が読むべき1冊はジャーナリスト出身の人口論が得意な河合雅司さんが著した「未来の年表」(講談社現代新書)だと断言できる。人口予測と未来像を語る本は数多あるけれど、この本ほど妥協なく辛く予測しているものはない。なにしろ、具体的に2027年には輸血用血液が不足する、とか2039年には火葬場が徹底的に不足し、焼き場渋滞が起きるといった描き方だ。人口が縮んでいくのは必然で、それに対処するにはムード的な文言ではなく、十数年かけて居心地のいい「小さな国」に向けての基盤整備に入ろう、というのが著者の主張だ。
その処方箋はこの本の第2部に10のアイデアにまとめられている。24時間社会からの脱却とか都道府県の飛び地合併を考える、あるいは第3子以降は文句なしに国が1千万円給付する、といった提案が並ぶ中に、中高年の地方移住推進の一環としての大学連携型CCRCというのがある。CCRCとはコンテニュイング・ケア・リタイアメント・センターの略称で、例えば「病」のような共通項を持つ中高年者が共同して快適に暮らせるような医療や介護の充実したコミュニティを作ったりする考えだ。
そこで退職大学教員が持つ膨大な蔵書を引き受けてくれる家屋を町が用意し、そこにリタイアした研究者に住んでもらう(時々滞在でもよい)のはどうだろう?
大学関係者だけでなく、一般の特定の分野に強い蔵書家も加えれば、かなり応募者が出るのではないか。そういう特徴ある蔵書群は若い研究者も惹きつけるだろう。
それができれば、僕は約3万5千冊を持参して引っ越すよ。現実に、研究室に貯められた本の大半はゴミ化して終わりと思う。「知」の消耗品化、痛ましいでしょ。このアイデア、どこかの自治体で真剣に検討してほしいな。
(跡見学園女子大学観光コミュニティ学部教授 松坂 健)
コラムニスト紹介
跡見学園女子大学観光コミュニティ学部教授 松坂 健 氏
1949年東京・浅草生まれ。1971年、74年にそれぞれ慶應義塾大学の法学部・文学部を卒業。柴田書店入社、月刊食堂副編集長を経て、84年から93年まで月刊ホテル旅館編集長。01年~03年長崎国際大学、03年~15年西武文理大学教授。16年から跡見学園女子大学教授、現職。著書に『ホスピタリティ進化論』など。ミステリ評論も継続中。
「中高年の地方移住推進の一環としての大学連携型CCRC」をつくり、大学教職員の蔵書もあって、知の再生産をしながら高齢者の社会参画を促すのは良いアイデアだと思います。
趣旨に賛同する地方自治体と連携して進めたら素晴らしですね。