「ブルーキャブ」登場 “抑制美”は高度な文化の象徴だ
2017年10月31日(火) 配信
トヨタ自動車はこのほど、ミニバンタイプのタクシー専用の新型車「JPN(ジャパン)タクシー」を発表した。従来のセダン型に比べて、車高が高いためゆったりと座れる。後部トランクには、スーツケースが2つ収納できるスペースを確保している。床も低く設計されており、車イスに座ったまま介助者とともに乗車できるなど、さまざまな配慮がなされている。
もう一つ、特徴的なものは、濃い藍色の車体カラーだ。「深藍(こいあい)」というらしい。同社はタクシー業界にこの「深藍」色に統一するように求めていくという。
藍色は日本人に親しまれた色だ。世界的に「ジャパンブルー」と呼ばれている。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、徐々に東京の街に濃い「ジャパンブルー」のタクシーを見かけるようになるだろう。
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13年10月21日付の本紙・旅行新聞には、当時観光庁観光戦略課長だった清水一郎氏(現・伊予鉄道社長)へのインタビュー記事が掲載されている。
英国での生活を経験された清水氏は「ロンドンは赤い2階建てバスやブラックキャブなどの車両が美しい街の風景に溶け込み、絵はがきになるほど有名です。バスやタクシーなど公共交通の車両そのものが世界中の人にロンドンを想起させる『街の顔』になっています。ニューヨークはイエローキャブが有名です」と語っている。さらに、「公共交通は、単に目的地に着けばよいというだけではなく、『街の顔』を作っているという発想が大事」と強調している。
近い将来、「ブルーキャブ」が東京、そして日本の象徴的な風景として定着していけばいいと思う。
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本紙は08年9月11日号から16年12月11・21日号まで、カラーセラピストの石井亜由美さんによる「日本の伝統色風景百選」を連載していた。
石井さんは今年2月1日号の連載100回記念の本紙インタビューで「色は人の心理にさまざまな影響を与える」と、その効果を強調した。
例えば、奈良県で05年に「青色防犯灯」を設置したところ、防犯や自殺防止などに効果があるとされ、全国各地の駅のホームなどに設置されるようになった経緯なども紹介。「色でまちおこしをしている地域」では、日本デニムの発祥の地として、まちを走るタクシーまで“デニムブルー”で統一されている岡山県倉敷市の児島や、“マリンブルー”を基調とする千葉県銚子市の取り組みも、1つの代表例として上げられた。
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私自身も岡山県高梁市のベンガラに彩られた赤い街並みの「吹屋の集落」を歩いたときは、統一された美しさを強烈に感じた。そのほかにも熊本県・黒川温泉では看板や壁の色を統一しているし、千葉県館山市は南欧風の建物の街としてイメージづくりに取り組んでいる。沖縄県・竹富島の白い砂と赤瓦の美しい集落などの風景は、旅が終わったあとも、強く印象に残っている。「どこに旅行しようか」と観光地を選ぶ際も、1枚の写真が大きな力を持つ。
訪れた旅先の都市や小さな街で、歴史に根差した統一感のある「色」に接すると、人はその文化薫る“抑制美”に心惹かれてしまう。とかく無秩序へ向かいがちな世の中にあって、抑制こそが高度な文化の象徴であるからだ。
(編集長・増田 剛)