「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(82)お迎えに手間を掛ける、運転手が手に持つ傘に
2017年11月5日(日) 配信
その日は、初めて宿泊するホテルにタクシーで向かいました。運転手が「このあたりですね」というところに、それらしきホテルは見当たりません。車寄せと、ドアマンが…とイメージしていたのに、それがないのです。
「あれかな」と運転手の声でその先を見ると、行き交う人の向うに見え隠れする1人の男性の姿が目に止まりました。そこでタクシーを止め、ドアを空けてもらうと、その男性が掛け寄って来て「西川様ですね」と声を掛けてきました。
初めて予約したホテルに到着して、こんなに驚くような対応をされるとは思っていませんでした。ただ、以前に同じような場面に出会った記憶があります。私の大好きな東京のレストラン「カシータ」のある、表参道・青山通りで見掛ける光景です。
そのホテルとは、10月5日に東京銀座にオープンした「ホテル ザ・セレスティン銀座」です。目立つ看板もなく、ホテルをイメージできる車寄せもありません。銀座の立地からそうしたスペースを取ることができなかったのでしょうが、与えられた環境の中で最幸の成果を出すことがビジネスです。ハードで叶わなければ、人でカバーすれば良い。
表参道のカシータはビル3階にあります。オープン時に伺ったとき、どのビルだろうかと迷いましたが、お客様に不安な想いをさせてはならないと実行したのが、このお迎えサービスでした。
もちろんそこには、少しでも早くお客様にお逢いしたいというスタッフの想いもありました。しかし、最も大切なことは、このはじめの出逢いの瞬間にお客様に感動を与え、レストランフロアにお客様をご案内することです。セレスティン銀座も同様のことが実行され、気持ちよくフロントへと案内をして下さったのです。
次に大切な事があります。お客様と一緒に歩きながら案内するとき、どのような会話でその時間を過ごすかです。案内する側も、変な沈黙をしないよう心掛けるでしょうが、そこで間違った声掛けや、質問をしてしまっては、その時間に不満を創り出してしまいます。
多くの場合、一生懸命に話しかけるのは良いのですが、「どちらからいらしたのですか」といったNGワードを安易に使ってしまうことがあります。基本情報を持ったうえで、お客様との時間と会話を楽しみましょう。そのためにも、事前に質問を多く手間を掛けてでも考え用意しておくことが、お客様を迎えるおもてなしになるのです。
実は、このセレスティン銀座の最上階には、「カシータ」の銀座店がオープンしました。おもてなしを食と宿泊の両方で体験できる、贅沢な場所にきっとなることでしょう。
コラムニスト紹介
西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。