「観光革命」地球規模の構造的変化(192) 自伐型林業と自律型観光
2017年11月3日(金) 配信
衆議院総選挙は、安倍政権の継続が決まった。安倍政権はこれまで「地方創生」「一億総活躍」「働き方改革」「人づくり革命」などの派手な看板政策を打ち出してきたが、地方の深刻な疲弊はまったく改まっていないのが偽らざる現状。
私は今後の日本の歩むべき方向性として「自伐型林業」の動きを高く評価している。日本は国土の69%が森林であり、世界に冠たる森林大国だ。しかし木材自給率は28%に過ぎず、豊富な森林資源が活用されていない。1960年代以降の高度経済成長によって山村の過疎化が進むとともに、安い外材の輸入によって日本の林業は大打撃を受けた。
現在の日本では「施業委託型林業」が一般的だ。ようするに山林所有者や地域が林業を自ら行うことをやめ、森林組合や林業企業に施業を委託するという「他者任せの林業」が当たり前だ。施業委託型林業では生産性向上が重視され、高性能林業機械化が進められた。その結果、例えば4人の林業労働者を雇用するために5千万円―1億円の機械投資が行われ、年間に1千万円の修理費を支払い、1日に200―300㍑の燃料を消費する。施業委託型林業は「高投資・高コスト」が前提で、一定の森林の皆伐を行い、環境破壊を誘発。再造林費用を捻出し難いために森林荒廃化が進み、土砂災害の原因になることが指摘されている。
現在、「自伐型林業」が注目されている。自伐型林業は山林所有者や地域が自らの責任で森林の経営や管理、施業を行う方式。自伐型林業では限られた山林を活用して持続的に収入を得ることが前提になる。そのために良木・良質材を育てて材木単価の向上を工夫し、森林の多目的利活用をはかることによって長期的な森林経営を行い、再造林のコストと労働を捻出する。さらに日本各地で木質バイオマス発電が行われ始めており、自伐型林業との連動をはかることで持続可能な地域経営の可能性が高まる。
観光分野においても「自律型観光」の推進が不可欠だ。地域観光振興の王道は「民産官学の協働によって地域資源の持続可能な活用を行い、地域主導で自律型観光の推進をはかる」ことである。自伐型林業の動きを参考にして、日本各地で自律型観光が軌道に乗るならば、観光によって地域が元気になるだろう。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授 石森 秀三)
コラムニスト紹介
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。