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SNSの利害 「誰ともつながらない」心地よさも

2017年11月10日
編集部:増田 剛

2017年11月10日(金) 配信

SNSでつながる社会から逃れたい願望も

 SNS(交流サイト)は情報の流れを変え、社会構造を大きく変えた。メディア業界の端くれにいると、情報伝達のスピード感や、拡散による広がりなど、SNSの持つ力の大きさを感じる。

 多くのメディアはSNSを最大限に活用して情報発信を強化している。本紙「旬刊旅行新聞」もツイッターやフェイスブック、インスタグラムなどを駆使して、日々の取材で得た情報をより速く、より多くの人に伝えている。

 今、SNSをテーマにした1本の映画が話題になっている。

 ジェームズ・ポンソルト監督・脚本の映画「ザ・サークル」は、主演の女性を演じるエマ・ワトソンが24時間自らの私生活(プライバシー)をSNSに公開することで引き起こすさまざまな現象をスリリングに描く、サスペンス・エンターテインメント作品として、11月10日に公開された。

 SNSは知人だけではなく、見ず知らず人とも“つながる”ことができる文明の利器である。だが、その陰に潜む“不気味さ”も存在する。

 神奈川県座間市内のアパートで、9遺体が見つかった猟奇的な連続殺人事件に世の中が驚愕した。この事件は、自殺願望を仄めかす女性と、犯行に及んだ容疑者がSNSでつながった。特定の趣味や“想い”など、見ず知らず者同士であっても、波長が合えば、世界中の誰とでも“友達”になれるし、それ以上の“関係”にもなれる。使い方が善ければ、無限の可能性があるが、物事には正と負の両面があることを改めて実感した。

 SNSに自分の気持ちや、お洒落な写真を投稿したり、友人や知り合いの近況を確認することに嫌悪感を抱いたり、疲れてしまう“SNS疲れ”という症状があると言われている。

 私も個人のSNSを始めたときは一時夢中になったが、熱しやすく、すぐに飽きてしまう性質が災いし、最近はほとんど投稿することはなくなってしまった。日々、記者という仕事上、さまざまなメディアやSNSから膨大な情報を収集し、記事を発信している身としては、“SNS疲れ”を時々感じることがある。私の知り合いには、若い世代でもまったくSNSをやらない人が何人かいる。私は、その徹底した生き方の潔さに感服する。

 だが、SNSはすでに生活に深く浸透している。やる人とやらない人との間に“情報格差”も生んでいる。手のひらに収まる情報の海に入り込み、溺れてしまわないように自分を律しなければならない。中毒症にも似て、これがわりと難しい。

 山奥の温泉旅館に宿泊すると、スマートフォンの電波が届かない宿がある。「何か急な連絡があったらマズいな」と心配になる反面、少しうれしい気持ちにもなる。

 電波が届かなければ、スマホは旅行バッグに入れっ放し。あとは、「リアル」な自然の美しさや、温泉の気持ちよさに集中すればいいだけである。電波が届かないことは、現在社会においては大きな不便であるし、旅館であれば宿泊客からクレームが発生する恐れもある。

 だが、その環境を逆手にとって、SNSにもつながりが切れる空間として特徴づければ、「誰ともつながらない心地よさ」を体感できる宿として、思いのほか、人気が出るかもしれない。

(編集長・増田 剛)

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