「津田令子のにっぽん風土記(31)」「誰もがマリンアクティビティを」 ~ 鹿児島県・瀬戸内町編 ~
2017年11月11日(土) 配信
奄美大島の南端、鹿児島県・瀬戸内町にある「ゼログラヴィティ」は、障がい者と健常者が共に楽しめるマリンアクティビティの総合施設だ。施設内は完全バリアフリー仕様。空港からの送迎車や、海を望む宿泊施設「清水ヴィラ」はもちろん、ダイビングやクルージングなどで乗るクルーザーには、車イスに乗ったまま水中へ降下する水中エレベーターを備える。宿泊施設の隣には車イスのまま入れる練習用のプールもある。障がい者向けの資格を持つインストラクターも常駐しており、車イス使用者も安心してダイビング、シュノーケリング、カヤックなどのマリンアクティビティができる。「無重力」を意味する施設名にはダイビング中に、この「空を飛んでいる感覚」を車イス使用者にも味わってほしいと感じたオーナーの思いが込められている。
ここでインストラクターを務める山下豊さんは、もともと大阪のダイビングショップに勤め、その後希望して沖縄支店に異動し、インストラクターを務めていた。縁あってゼログラヴィティの現場責任者となった。
これまで6千回以上もダイビングをしている山下さんだが、赴任が決まってから障がい者向けのインストラクターの資格を取得した。利用者の満足度も高い。気をつけているのはとにかく「聞く」ことだそうだ。例えば建物に入るときには「どうやって入りましょうか」「ここに座れますか」「補助イスは使いますか」などと聞きながらサポートすることで、相手が希望を言いやすいようにしている。
これまで障がい者を含む団体約40組を迎えたが、今も知らないことは多いという。最近は、盲導犬の仕事中に勝手に触ってはいけないことを知ったと話してくれた。「知らないことがいけないことではないのです。知ったということがいいことなのだから、今知りましたと堂々と言えばいいのです」。
奄美大島では、アマミノクロウサギなど希少な動植物、珍しい景色の見られるダイビングスポットなど、独特な生態系が「すごい」と山下さんは言う。「ただ、ここではそれが普通なのです。いつまでもそれが普通であるように守っていかなければならない。そのためには旅行会社などと協力したり、外国人観光客を呼んだり、島の発展に向けて攻める部分も必要だと思います」。奄美大島らしさを味わいながら、施設と人の力で誰もが「無重力」を楽しめるこの場所は、さらに世界から人が集まる場所になっていきそうだ。
コラムニスト紹介
津田 令子 氏
社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。