旅館大学セミナー、佐野社長が講演(2日目)
2017年12月15日(金) 配信
2日目に佐野社長が登壇。18年の経営指針として「磨け!独自価値」をキーワードに講演を行った。
□「18年以降、旅館の大転換期にある」
「18年以降、宿泊業(旅館)は大転換期にある」(佐野社長)。18年には、民泊新法が施行され、旅館業法の改正法案が成立する見通し。民泊で需要の奪い合いになり、旅館業法が施行されれば、ホテルと旅館の営業種別は「旅館・ホテル営業」に統一される。
政府は「生産性向上国民運動推進協議会」で宿泊業の働き方改革も進めている。労働契約法と派遣法の2つの法改正で、18年問題なども浮上している。18年4月1日から、労働者は有期契約から無期への転換を申し入れることができるようになる。派遣社員が同じ組織で働けるのは3年までとなり、この最初の期限が同年9月末となる。
とくに旅館を見ると、旅館そのもの特徴が薄れていく。客室が和室主体で、施設が和風という特徴は、必ずしも旅館だけのものではない。旅館以外でも、和室で寝具が布団、浴衣、温泉などの有する施設は多い。佐野社長は「どんどんボーダーレスになってきている。従来の旅館という既成概念で”存在価値”を求めることは難しい」と強調。これらを踏まえ、今回のキーワードとして「独自価値」を提言した。
独自価値とは「他所に無く、客に価値として認められるもの」だという。例えば、長野県・菱野温泉の常盤館では、露天風呂に行くまでに、登山列車を使用する。これがレバレッチ効果を上げた。“登山列車に乗車して、眺望のよい露天風呂へ至る”これにより独自価値が高まり、ブランド構築にもつながっている。佐野社長は「ここに意識を集中すべき。客はブランドを購入する」と述べた。
ただ佐野社長は「独自価値には収益改善、ビジネスモデル化を意識してほしい」と留意点を挙げた。ただ利益を追求するだけでは本末転倒だという。「旅館のアイデンティティと、独自価値のミスマッチは避けたい。客に伝えるべき価値を見誤らず、自館の活動、理念、方針などとのシンクロが重要だ」と呼び掛けた。
独自価値をモチベーションの向上にもつなげていく。旅館は地域観光資源や地元産品など、独自の色でさまざまな価値を生むことができる。佐野社長は「独自価値を経営の希望にしてもらいたい」とし、「経営者と社員らで共有し、社が一丸となって育ててほしい」と語った。
□「販売環境を整える」
リョケンの鈴木正人本部長は旅館の販売チャネルについて講演。同社が行ったアンケートで、17年は7年前と比べ、直接予約が13・2ポイント減少、OTAは14・2ポイント増加したことが分かった。「改めて、リアルエージェントとOTAも含め売上や利益、コストを比較した方がいい」「販売チャネルに合わせた販売環境を整えることが必要」と警鐘を鳴らす。チャネル販売環境の変化から「独自価値の訴求と、自力販売力の強化」が必要になると呼びかけた。
一方、旅館が行っているSNS(交流サイト)については「もう少し手を加えてほしい」と話す。ただのプッシュ型の商品紹介ではなく、自館の正確な情報を発信することが大事だという。さらに自館だけで発信するより、公式SNSアカウントを創設し、客自身に写真などを共有してもらう。これにより「相互コミュニケーションができる」と説明した。
長島本部長は生産性向上として、料理の提供方法などを説明。複数出しで、時間と労力を使うよりも1品出しで効率化するなど、成功事例を報告した。このほか、組み込み方式の事例を報告。引き出し重や、岡持ちを使用し、「オリジナリティを発揮して客に楽しみも味わってもらえる」と紹介した。また、季節や期間限定、月替わりのメニューを提供していくことや、ビュッフェの1つ先の“フードコート”などの提供方法も提示した。
木村臣男会長は、「旅館業界は変革を迎えるが、“ピンチであると同時にチャンスである”という考えのもと、取り組めるかで変わってくる。生産性の向上などで足下固め、独自価値の磨き上げに努めていきたい」と締めくくった。なお、次回は来年7月に長野県・ホテル翔峰で行う見通し。