「トラベルスクエア」変化対応ではなく変化適応
2018年1月1日(月) 配信
変化対応と変化適応。 似たような言葉だけれど、中身は相当異なる。
変化対応は、なにか外界に変化が現れて、我が身を脅かす、あるいは我が身にとって有利な状況になったとき、我が身のありかたはそのまま、その変化に対応するようにさまざまな手段、対策を講じることだ。起きてしまった変化の波をなんとか我が身に引き寄せて、それを克服しようとする。それが変化対応だ。
考えてみると、我が宿泊業界はこの数年、変化対応で一瞬も心が休まることがなかったのではないだろうか?
ネットマーケティングの革命的な進捗、インバウンド客の予想以上の到来、そして民泊の登場。どれもこれも、旅館ホテルの日常に直接かかわって来る重大変化だと思う。
だから、対策のためのコンサルティングを受けたりゼミナールを受講したり、大忙しの毎日ではなかったですか? と問い掛けたいほどだ。
もちろん、何もしないより、はるかにいい。しかし、「対応」というのは、我が身を変化させる要因が「外」にある、ということだ。言い換えれば、変化の主体は「外」にあって、我が身がそれに振り回される、ということなのだと思う。対応に忙しく、いつか我が身に備わっていた独特な持ち味、社風などを失ってはいないか。そこが変化対応の怖いところだ。
それに対し、「適応」はどんな変化が来ても、それに対抗できる体質を自らが変化して、作ってしまおうということだ。
数十億年前、彗星が地球に衝突して恐竜が死滅していったというが、突然訪れた地球環境の変化に、恐竜自体が対応できなかったのが原因といわれる(その巨体ゆえ)。残ったのは寒冷な地球に適応できるように進化したものだけだった。
これから2020年まで、個人的な予測としては、楽観論で観光にも追い風が吹きまくると思う(ただし、半島有事がなければの話)。オリンピックやラグビーのワールドカップなどの大イベントの前は、大小さまざまなコンベンションも入ってくるので、集客の心配は少ない。それに秋にはロイヤルウェディングがあるし、改元景気も出ると思う。
表面上の(喜ばしい)変化は次々とある。その変化を利用する対応策は重要だが、それだけに溺れていると、自己を主体的に変化させる「適応」体質づくりが遅れる。
僕はそれこそが一大心配事だ。「宴」の後にはリアルに氷河期がくる。そのとき、生き残れるのは、そういう状況にも耐え抜ける適応体質を持った旅館ホテルだけだ。
どんなことをしたら、変化適応体質を作っていけるか、それをこの1年、真剣に問い詰めていきたい。僕なりの新年に当たっての抱負だ。
(跡見学園女子大学観光コミュニティ学部教授 松坂 健)
コラムニスト紹介
跡見学園女子大学観光コミュニティ学部教授 松坂 健 氏
1949年東京・浅草生まれ。1971年、74年にそれぞれ慶應義塾大学の法学部・文学部を卒業。柴田書店入社、月刊食堂副編集長を経て、84年から93年まで月刊ホテル旅館編集長。01年~03年長崎国際大学、03年~15年西武文理大学教授。16年から跡見学園女子大学教授、現職。著書に『ホスピタリティ進化論』など。ミステリ評論も継続中。