〈旬刊旅行新聞1月11日号コラム〉観光制裁 危うい岩盤の上に立つ観光産業
2018年1月11日(木) 配信
2018年が始まって10日余りが過ぎた。2月9日からは韓国の平昌で冬季オリンピックが開催される。1月9日には、韓国と北朝鮮は南北境界線にある板門店の韓国側「平和の家」で閣僚級会談を開き、北朝鮮の選手団が平昌五輪に参加する流れになった。しかしながら、北朝鮮の核開発問題は解決されたわけではなく、東アジアを巡る国際情勢は依然として今年も厳しく、危機的な状況が続くと見られる。
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韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は17年12月13日から3泊4日の日程で国賓として中国を訪問した。習近平国家主席や李克強首相とも会談し、韓国にとっては、北朝鮮の核問題への対応と合わせて、米国の終末高高度迎撃ミサイル(THAAD=サード)配備による中国からの報復措置の改善も会談の大きなテーマであった。
サード配備の報復措置として中国政府は16年3月から、韓国への団体観光商品を全面禁止していたが、文大統領が訪中する直前に緩和された。韓国は中国人観光客を大歓迎したが、文大統領が帰国して間もなく、中国からの報復は再び強まった。
日本も12年9月に尖閣諸島を国有化した際に、中国の大手旅行会社は日本へのツアーを一斉に中止し、中国人旅行者でにぎわっていた観光地が一時期閑散としていたことは記憶に新しい。また、15年には中国の“爆買い”ブームの絶頂期を迎えたが、16年4月には、中国財政省が海外で購入した商品を中国に持ち込む際に課税を強化したことによって、急速に爆買い現象が沈静化した。
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海外旅行者数が伸び悩む日本を離れると、世界中、とりわけアジアでは爆発的に海外旅行者が増加し、旅行先での観光消費額も拡大している。例えば中国の年間海外旅行者数は日本の総人口に匹敵する1億2千万人規模であり、アジアの近隣諸国だけでなく、欧米や中東、アフリカを含め世界中に大きな影響を与えている。このため、観光大国は、国際間の経済に直結する成長産業の観光を、政治的に利用する価値が高まってきている。相手国との駆け引きの中で「観光制裁」はその有効な政治手段の一つである。観光大国を目指す日本も例外ではない。
米国ではトランプ政権になって、再びキューバへの個人渡航禁止の措置を取っている。観光産業に依拠するキューバにとっては大打撃だ。一方、イランは15年に米英仏独ロ中の主要6カ国との核合意によって制裁が解除されて以降、押し寄せる観光客向けのホテル開発が一気に進んだ。別の意味で観光産業の影響の大きさを感じさせる。
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日本では、インバウンドの急激な拡大と、2020年に訪日外客数4千万人、30年までに6千万人という右肩上がりの政府目標、さらには近年の着実な実績によって、「今後もこの流れがいつまでも続く」ムードが漂っている。しかし、この過信は、少々危険な気がする。
国家間の軋轢が生じた場合、武力衝突はどの国も最も避けたい手段である。国際観光交流が拡大するなかで、観光の持つ影響力は今後も拡大し続けることは間違いなく、相対的に国力の弱い国は、強い国から「観光制裁」を受け、翻弄される可能性はさらに高まるだろう。政治状況によって観光産業はひどく危うい岩盤の上に立つという認識を持ち、あらゆる想定が必要である。
(編集長・増田 剛)