「観光ルネサンスの現場から~時代を先駆ける観光地づくり~(156)」真の「観光ルネサンス」を求めて
2018年1月27日(土) 配信
本特集タイトルの「観光ルネサンス」は、2005年に始まった「国際競争力のある観光地づくり」のための国土交通省支援施策の呼称である。その意味を、当時の観光立国懇談会は「文化を、魅力を再活性化させ、『光』の輝きに磨きをかけ直し、心と体にいい旅を創造すること」と定義した。
そのタイトルのもとにスタートした本稿も、すでに13年を経過した。この間、08年に発足した観光庁をはじめ、数多くの地方創生施策が投入されてきた。
その成果について語るのは本稿の目的ではないが、多くの地方が依然として厳しい状況に置かれていることは疑いない。
観光に関して言えば、昨年末に訪日外国人旅行者数が2400万人を超え、当初の目標を早々とクリアした。このこともあって、政府としても観光に大きな期待を寄せている。
20年までに4千万人の訪日外国人旅行者の誘致を目標とした「明日の日本を支える観光ビジョン」(16年3月策定)では、これまでは十分に生かされてこなかった「観光資源」、とりわけ「文化財」などの歴史的文化資源の大胆な活用策や、観光資源としての新たな景観計画の策定などを提言した。
同年9月にスタートした「歴史的資源を活用した観光まちづくりタスクフォース」や「日本遺産」なども、こうした地域の埋もれた文化資源の活用を目的としている。
しかし、こうした地方創生策には、我が国固有ともいえる大きな欠陥が潜んでいる。地方と中小企業が元気なイタリアや欧州諸国のグリーンツーリズムなどにかかる政府支援の考え方や手法から、我が国も多くのことを学ぶ必要がある。
グリーンツーリズム施策の草分けともいえるイギリスでは、公的支援の考え方として、(1)農家による主体的活動が成熟してから支援する(自主性・自助努力の尊重)(2)複数の団体が共同で支援する(特定の機関の考え方に縛られない)(3)プロジェクト形式による継続的支援(組織としての自立ができるまで長期継続)する――という3つの原則が徹底している。補助金が切れたら活動が停止、補助金の考え方(補助要件)に縛られる、単年度だけの支援で事業が継続しないといった状況が続けば、結局は税金の無駄遣いになってしまう。そればかりか、地域やこれらを支える事業体の相次ぐ失敗は、ますます地域の自信を喪失してしまいかねない。
筆者が3年前からかかわっている「日本遺産」は今年4年目を迎える。まさに正念場でもある。日本遺産という地域の歴史文化ストーリーを具体的な事業に結実させるために、文化庁は昨年10月、フォローアップ委員会を発足させた。
地方創生で何よりも重要なのは、地域を元気にするプレーヤーたちの存在であり、彼らの自主・自立の精神である。草の根の人材発掘と志・スキル磨き。これこそが真の観光地域ルネサンスの源であろう。
(東洋大学大学院国際観光学部 客員教授 丁野 朗)