プランと予約の継ぎ目なくす 関連企業と共に成長を
オンライン旅行サービスの市場規模は3兆円を超えた(2016年)【表参照】。移動から宿泊まで、端末1つで済ませることができ、プライベートやビジネス、さまざまなシーンで利用されている。OTA(オンライン旅行会社)間の競争が激化するなか、独自の工夫で差別化をはかる企業も出てきた。今回は、16年に旅行業に参入し、「NAVITIME Travel」を立ち上げたナビタイムジャパンに注目した。
【謝 谷楓】
■計画と手配を同時に
観光スポットを見つけ、地図でその位置を確認する。気に入ればそのまま旅程に組み込み、旅先でのタイムスケジュールを作成できる。“NAVITIME Travel”では、この「旅行プランニング」機能のほか、エアチケットの予約や、ダイナミックパッケージの購入も可能。ナビゲーションで培った直感的な検索機能とオンライン予約を掛け合わせた、オリジナリティの高いサービスに仕上がった。同サイトの立ち上げを皮切りに、旅行業(第2種)に参入したキッカケについて、同社トラベル事業部長の毛塚大輔氏は次のように語る。
「2006年から航空会社やホテルとの連携をはじめ、ルート検索のなかで空席照会やエアチケットの手配を行っていました。調べたあとすぐに予約できる点が高い評価を得ました。加えて、会員向けアンケート調査(15年実施、外部調査機関に依頼)のなかでも、旅の計画を立てつつ予約をしたいという声が多く寄せられました。ルート検索と予約手配、双方を実現する仕組みに対するニーズの高さを知り、旅行業への参入とサービス立ち上げへの算段がついたのです」。
■ビジネス専用も検討
計画と予約をシームレスにつなぎ、手間を省く。増加傾向にある個人旅行者のリクエストに応えた仕様が、オリジナリティの高いサービスに結びついた。スタートして1年が立ち、システム面での課題も分かってきた。
「UI(ユーザーインターフェイス)面の改善に着手したいですね。検索と予約を同時に実現し、使い勝手を向上させる。ユーザーの要望にしっかり向き合い、開発を進めていきたいと考えています。用途としては、ビジネスと観光で五分五分。場合によっては今後、ビジネスユーザー専用“NAVITIME Travel”も必要となるかもしれません。もう少し、ようすをうかがうつもりです」。
■日本への関心高める
“NAVITIME Travel”は昨年9月、カタカナ表記だった「Travel」が英語表記となり、英語・韓国語・中国語にも対応した。
「実は現在、国内で幅広い支持を得た乗換検索サービスを、29の国・地域(18言語対応)でも提供しています(NAVITIME Transit)。一部エリアではルート検索にも対応しました。列車の運行事情など、慣習が異なる部分も多く試行錯誤が続きますが、国内と同質のトータルナビを世界に広めたいと考えています。グローバル利用者のうち、海外の現地ユーザーが半数を占めます。我われのインターフェイスに慣れ親しんだ方々にとって、“NAVITIME Travel”は大変使い勝手の良いサービスですから、訪日旅行のプランニングで活用する例も増えています」。
昨年は、スマートフォン端末用アプリをリリースし、パソコンで作成した旅程表を、異なる携帯端末でも見られるようにした。国内発のサービスを通じ、日本への興味関心を高めてもらう狙いもある。
■競合ではなく協業を
「旅程のプランニングは個人ベースのものになります。旅行会社や航空会社、レンタカー会社などインバウンドの取り込みに力を入れる企業に対し、周遊データ(個人を特定できないよう加工)を提供することもできます。例えば、台湾在住の20歳代女性がどのようなルートをたどって目的地に向かったのかというように、具体性のある周遊データを知ることが可能です」。
企業との連携が多いことが、毛塚氏の率いる事業領域の特徴でもある。
「メディア事業部の責任者も兼任しているのですが、先ほど述べたように、トラベル事業はそのなかから派生したものになります。ルート検索のなかでの空席照会やエアチケットの手配など、航空会社やホテルとの連携が軸となっています。昨年は外国人旅行者数が2800万人を超えました。地方行政とのつながりの強いインバウンド事業とは異なる視点で、観光立国に貢献したいですね」。
旅行商品の販売を担う点ではOTAに位置付けられるものの、ナビゲーションという強力なコンテンツを持つ同社の狙いは別にあるようだ。
「他OTAを競合として捉えてはいません。ナビタイムジャパンの強みはやはり、自社開発のルート検索にあります。旅行前・中では我われの検索サービスを、手配は他OTAを利用してもらう。その流れのなかで協力できる部分があれば、一緒にプロジェクトを進め、成長していきたいと考えています。昨年はオリックス自動車が運営するウェブサイトに対し、プランニング機能のOEM提供を始めました」。
同社の月間ユニークユーザー数は約4100万。有料会員数は480万人にも上る。技術と保有するビッグデータは、地方行政だけでなく観光関連企業にとっても役立つ。ルート検索のシステムを自社開発してきたことが示すように、じっくりと事業を育てていくことが、同社の強み。トラベル事業についても、未だ投資期間という位置づけだ。
「ユーザーの利便性をどうすれば高められるか。とことん追求していきたいと考えています。自社メディアを通じた観光情報の発信も行っているのですが、まだそろえきれていないエリアやスポットもあります。より集客と収益を生むコンテンツとするためにも、もう少し時間が必要という認識です」。