「観光革命」地球規模の構造的変化(195)五輪と観光と平和
2018年2月3日(土) 配信
2月9日から平昌(ピョンチャン)冬季五輪が開幕する。国際オリンピック委員会は、平昌五輪への北朝鮮の参加を正式決定し、スキー、アイスホッケー、スケートの3競技に出場すると発表した。五輪初の南北合同チームをアイスホッケー女子で結成や開会式で統一旗を掲げた合同入場行進も承認された。
昨年北朝鮮は米国到達を可能にする大陸間弾道ミサイルの発射実験に成功し、軍事的緊張が極度に高まった。そういう情勢の中での平昌五輪開催なので北朝鮮の出方が注目されたが、南北対話の進展で北朝鮮の五輪参加が実現した。
オリンピックは「平和の祭典」と呼ばれ、五輪運動の大きな目的の一つは「スポーツによる平和な世界の構築」だ。そういう意味で平昌五輪は開幕前にそれなりの成果を挙げたといえる。
一方、日本政府は昨年末に2018年度予算案を閣議決定した。一般会計の総額は97兆7128億円で、当初予算としては過去最大規模。とくに防衛予算は6年連続増加の5兆1911億円で、過去最大を更新した。
20年にインバウンド4千万人実現のための観光予算は前年度比18%増の248億円であるが、防衛予算との比較では、あまりにも少ない予算であることが明白だ。防衛省は来年度にオスプレイ(垂直離着陸機)4機を購入予定で457億円の予算を組んでおり、1機当たり114億円だ。政府の観光予算はオスプレイ2機分程度である。観光消費による税収効果は国税と地方税を合わせて4兆円以上であり、観光予算が少額過ぎると言わざるを得ない。
北朝鮮や中国の脅威に対抗して日本の防衛力強化は不可欠だが、緊張緩和の外交努力や観光交流による相互理解の促進も必要不可欠だ。
オリンピックが「平和の祭典」と呼ばれるのと同様に、「観光は平和へのパスポート」と言われ、観光産業は「平和産業」とも呼ばれている。北海道大学メディア・ツーリズム研究センターは昨年12月にソウル大学平和統一研究院や広島大学平和科学研究センターなどと連携して、「平和観光研究の可能性」と題する国際シンポジウムを開催した。民産官学の協働によって観光による文化的安全保障の強化にも尽力すべきであろう。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授 石森 秀三)
コラムニスト紹介
北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。