独自コンテンツを開発 健康福祉部が差別化の力に(上天草市)
2018年2月9日(金) 配信
健康寿命の促進と観光客を呼び込む手段の1つとして、「健康づくり」に耳目が集まっている。他地域との差別化を実現するためにはどうすれば良いのか? 上天草市(熊本県)では、健康福祉部が観光イベントに協力。独自のアイデアを生かすことで、差別化につながるコンテンツづくりを進めている。
【謝 谷楓】
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□分野外の知見を生かす
ヘルスツーリズムや日本版CCRC、観光資源を健康づくりに生かす取り組みが全国で活発化している。1月には、玉野市(岡山県)が、旅行会社大手との提携を発表。退職者コミュニティの形成に向け、一歩前進した。同市では農泊(農山村漁村滞在型旅行)の企画造成を検討するなど、提携先の旅行会社の持つノウハウを存分に利用する構えだ。
ヘルスツーリズムの主なコンテンツは、ウォーキングや入浴(湯治)、食事など。地域の自然や特産品に触れ、楽しめるよう工夫することで消費額の増加に結びつけたい狙いもある。一方それだけでは、地域ごとの差別化が難しいという課題が残る。風光明媚な場所と美味な食材を堪能する体験は、豊かな自然を持つ日本では難なくクリアできるからだ。観光分野以外の知見に基づくコンテンツの創出が必要とされる。
□数値化で健康意識高める
住民の健康意識向上と交流人口増加に取り組む上天草市(熊本県)では昨年、市の健康福祉部が中心となって「複合型スポーツ&ヘルスツーリズム事業」を立ち上げた(協力=民間活力開発機構)。課題の1つである市内の特定健康診査受診率を上げるためには、具体的な数値を示すことが欠かせないと考え、観光イベントに骨密度や肌年齢、血圧を測定するブースを設けた。初年度ということもあり成果は未知数だが、健康づくりが観光イベントのコンテンツとして機能することを示した。
この取り組みは2月3日、天草四郎観光協会との共催によるウォーキングイベント「菜の花ウォーキング(上天草市トレッキングフェスティバル)」でも行われた。昨年11月に行った取材に対し、同市健康福祉部の松本洋司参事は「継続して展開することで、市民やリピーターの健康志向を高める役割を果たしていきたい」と語り、健康に着目したオリジナルコンテンツづくりが、市民の健康増進と市外からの誘客には必要不可欠との考えを示している。
□多様なニーズに応える工夫を
2月のイベントでは、入浴医療の第一人者とされる前田眞治氏(国際医療福祉大学大学院教授)をゲストとして招聘。ウォーキングイベント後に、前田氏によるトークショーを開き、一歩踏み込んだ取り組みを目指す。
トークショーは美容と炭酸の関係をテーマにしたもので、ダイエットに効く炭酸水の活用方法など、健康づくりに関する具体的なアドバイスが行われた。トークショー後には「天草五橋めぐり遊覧船」に乗り、大矢野島などの島々をつなぐ橋の眺めを楽しむクルージングを実施。ゲストと参加者の交流がはかられた。参加費は遊覧船と合わせて1人1000円。ダイレクトメールや市のホームページを通じ事前に周知し、13人が集まった(定員20人)。
市民や観光客のなかでも健康に対する意識はさまざま。関心の高い参加者とビギナー双方に届く施策はないかと考えたときに、著名人によるトークショーに辿り着いたという。
前田氏は温泉や炭酸水の研究で有名。炭酸博士の異名を持ちテレビをはじめとしたメディアでの露出も多い。有料のトークショーを設けることで、ウォーキングよりも一歩深く健康づくりに励みたい参加者のニーズに応えた格好だ。実際、阿蘇エリアから訪れた参加者からは、「テレビでの話を参考にしています。今日の話を通じ、さらに理解が深まった」という声が上がっている(30代女性)。ビギナーからの反応も良く、ダイエットに効く入浴・食事方法について多数の質問が寄せられた。
□差別化につながるコンテンツを
ウォーキング後の測定は誰もが参加できる全方位型の取り組みだが、トークショーでは参加費と定員を設けた。理由は、参加者を飽きさせないためにある。自然に触れるだけなら上天草市外のイベントでも良い。参加者個々人の健康づくりと観光誘致を同時に実現するためには目新しさが求められる。有料コンテンツの導入は、「上天草市のイベントでは常に新しいコンテンツがある」という認識を広げ、他地域との差別化につながる。今回は、実証実験という位置付けのため参加費用は最低限に押さえられているが、来年度以降はより本格化させる可能性も。