「正しい知識」の学びを 訪日LGBT旅行者は増加
2018年3月1日(木) 配信
□【1面の関連記事】ホテルグランヴィア京都 接遇部担当部長 池内志帆氏
――LGBTウェディングについて教えて下さい。
当社は2006年、日本の企業としては初めて国際ゲイ・レズビアン旅行協会(IGLTA)に入会しました。年次総会に初めて参加した13年(シカゴ大会)に、欧米を中心とする多くの国や地域からの参加企業が、LGBT当事者向けの商品を多数販売しているのを目の当たりにし、当社を含む日本からの参加企業はLGBT旅行者に向けて訴求力のある商品を何も持っていませんでした。また、保守的なイメージが強い日本は、まだその当時LGBT旅行者にとっては、旅行先としての優先順位が低いということも実感しました。
そこで、「京都らしい、同性カップルの挙式プラン」を造成することで、日本もLGBTフレンドリーな施設があり、安心してご旅行いただけるというメッセージを発信することにしました。
もともと外国人カップルのための挙式プランを販売していたこと、京都では春光院さんというお寺が既に同性婚式を行っていたことで、パッケージの造成自体は比較的スムーズに実現しました。
14年3月、世界最大規模の旅行見本市「ITB Berlin」で初めてプレスリリースを出し、大きな反響がありました。問い合わせ件数は年平均20件ほどいただいておりますが、実際に挙式を挙げられるカップルは年数件ほどです。婚礼を獲得するために同性婚プランを作ったわけではなく、「日本でも同性カップルの挙式が可能(法的には認められていないものの)」というメッセージを出すことで、LGBTフレンドリーな旅行先として認知していただければという思いで始めたものです。
――ウェディング以外のLGBT宿泊者への取り組みはありますか。
宿泊の専用プランはとくに設けていませんが、事前に同性カップルと判明した場合は、6色の折り鶴とともにウェルカムメッセージを入室したり、記念日などでご宿泊のお客様にはピンクのハート形ケーキを用意したりしています。ただ、これらは事前に同性カップルであることが判明した場合のみになります。
また、15年秋にはトランスジェンダーの方が気兼ねなくトイレをご利用になれるよう、ロビーのユニバーサルトイレの看板をGender Neutral Bathroomという表記に変更しました。いわゆる「誰でもトイレ」の看板ですが、こちらも国内のホテルとしては初めての設置です。
コンシェルジュでは、LGBTフレンドリーなレストランのリストを独自の調査で作成し、ご案内に役立てています。
――従業員教育について教えて下さい。
不定期ではありますが、ホテル内の全部署を対象に社内セミナーを実施しています。
また、東京レインボープライドや関西レインボーフェスタなどの国内のLGBTイベントへは14年から出展し、そのようすを社内の掲示板に報告するなど、会社としてLGBTコミュニティへのサポートを行っていることを周知するようにしております。
さらに、バックオフィスにもレインボーステッカーやレインボーグッズを配置するなど、LGBTフレンドリーであることを従業員に可視化するように心掛けています。
――今後取り組みを考える施設に利点やアドバイスをお願いします。
まずはLGBTの方々への「正しい知識」を学ぶことが重要です。最近では各地でLGBTセミナーが開かれ、インターネットでもさまざまな情報を得られるようになってきました。実は国内のほとんどの施設は既にLGBT旅行者を受け入れています。それにも関わらず、気づかないまま接客をしていらっしゃるケースが多々あり、気づかないが故に失礼な接客を行ってしまう場合もあります。「LGBTの方々は常に身近に存在する」という意識を持って接客すること、最低限の知識をスタッフが持っていることは、LGBT旅行者を受け入れる際には非常に重要なポイントです。
そのうえで、積極的に市場へアプローチを行うには、LGBTツーリズムに特化した旅行見本市・商談会にブース出展を行うことも非常に有効な手段です。もちろん、まずはIGLTAに加盟をし、さまざまな情報を入手するとともに、IGLTAのホームページに情報掲載することもBtoB、BtoC両方へのアプローチとして効果が見込まれます。
世界のLGBT旅行市場規模は、少なく見積もっても2020億米ドル(Out Now調べ・日本円で約22兆円)、16年に海外旅行を行ったLGBT旅行者数は8600万人以上(UNWTO調べ)というデータがあり、オリンピックに向け今後ますます訪日LGBT旅行者は増えていくと予想されます。
海外のLGBTツーリズムの現状を知る機会は国内では多くありませんが、昨年初めて開いたITB BerlinアカデミージャパンLGBTツーリズムシンポジウムを本年の夏も開催できるよう調整中です。実現の際は事業者皆様にぜひご参加いただきたいと思います。 【飯塚 小牧】